単騎、千里を走る

2006/03/10 錦糸町シネマ8楽天地(シネマ5)
チャン・イーモウ監督が高倉健を中国映画の主演に招いた。
普通に面白く、普通に感動できる。by K. Hattori

 現代中国映画界の巨匠にしてヒットメーカーでもあるチャン・イーモウ監督が、日本の映画スター「健さん」こと高倉健を主演に招いて作った人情ドラマ。「高倉健がチャン・イーモウの映画に出る!」と聞いたときは、『HERO』や『LOVERS』のような活劇映画を期待したのだが、できたのは『初恋のきた道』や『あの子を探して』に連なる、中国農村や地方都市を舞台にした小さな映画だった。日本から単身中国に渡った男が、さまざまな人に助けられながらあちこちを旅するロードムービーだ。

 老漁師・高田剛一のもとに、東京で暮らす息子の妻から手紙が届く。息子が原因不明の急病で入院したのだ。10年も疎遠になっていた父子関係を修復しようと、剛一は息子を病院に見舞うが、息子は父との面会を頑なに拒んだ。故郷に帰ろうとする剛一に、息子の妻は1本のビデオテープを手渡した。それは中国の仮面劇を研究している息子が、中国で撮影したビデオだった。その中で息子は撮り残した「単騎、千里を走る」という劇を撮影するため、再び中国を訪ねると中年の役者に約束していた。病気になった息子の代わりに、自分がその劇を撮影しよう。そう決意した剛一は単身中国に渡る。しかし肝心の劇を演じるはずの役者は、傷害事件を起こして刑務所に入っていた……。

 物語は日本で始まり、最後も日本で終わる。この日本パートはチャン・イーモウ監督ではなく、『駅 STATION』や『鉄道員(ぽっぽや)』などで高倉健とくんでいる降旗康男監督が手がけている。日本側の撮影は高倉・降旗コンビと何度もチームを組んでいる木村大作。中国側の撮影は『HERO』や『LOVERS』のジェオ・シャーディン。こうしたスタッフの違いからか、日本パートと中国パートは風景も違えば、色調もタッチもまるで違う。日本パートは丹精できめ細かい完成された世界を作っているが、小さくまとまっているような印象も受ける。中国パートは粗削りでエネルギッシュ。しかしこうした映像の雰囲気が、物語ともうまくマッチしているようにも思った。日本パートは調和の取れた世界だが、死に向かいつつある映像。対して中国パートは、その中で小さな命が育まれ、成長していく若々しさに満ちている。

 高倉健演じる主人公のキャラクターは、自分の悩みや苦しみを心の内に押し込んだまま唇をギュッと固く結んだ表情など、いかにも「これぞ健さん!」というステレオタイプで面白みに欠ける。しかしこの映画の主役は、高倉健演じる異邦人の目から見た「中国」そのものなのだろう。近代化が進む中国にあっても、昔ながらの風景が残る場所、昔からの人情が残る町。それが国際監督として中国を外からながめることの多いチャン・イーモウ監督が、今回映画の中で描きたかったことのように思えてならない。10年ぶりに父と息子が和解する物語は、チャン・イーモウ監督なりの中国映画回帰宣言なのかもしれない。

(原題:千里走単騎)

1月28日公開 日劇2ほか全国東宝系
配給:東宝
2005年|1時間48分|中国|カラー|ビスタサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.tanki-senri.com/
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