力道山

2006/02/10 SPE試写室
日本プロレスの創始者・力道山の伝記映画。
韓国人俳優ソル・ギョング主演。by K. Hattori

 戦後の日本でプロレスブームを巻き起こした国民的ヒーロー、力道山の伝記映画。1963年に力道山が赤坂のクラブで刺される場面から物語は回想シーンになり、朝鮮半島出身力士としての下積み時代、力士廃業とプロレス開眼、国民的ヒーローに上り詰めていく様子、栄光の頂点で味わう周囲に対する疑心暗鬼、精神的な孤立と孤独など、人間力道山の光と影を描いていく。主演は韓国人俳優のソル・ギョング。監督はソン・ヘソン。日本人の俳優が多数出演し、使用されている言葉もほとんど日本語だが、これはまぎれもない韓国映画なのだ。(形の上では日本側でもプロデューサーを立てた韓日合作映画だが、企画と製作の主導権は完全に韓国側にある。)

 韓国で日本の朝鮮系格闘家の生涯を映画化した例としては、この映画と同時期に作られた『風のファイター』という大山倍達の伝記映画がある。しかしこれは大山倍達ならぬ崔倍達(チェ・ペダル)という青年が、朝鮮古武道で日本人空手家を次々なぎ倒していくというヘンテコな映画だった。僕は『力道山』にもそうした映画の匂いを感じ取ったのだが、これが意外なことにすごくまっとうな映画だった。映画では力士としての力道山が朝鮮半島出身であるがゆえに差別され、関脇から大関への昇進が見送られたという説をとっている。これには別の説もあるようだが、映画に描かれた民族差別説も世間の俗説としては十分によく知られているもの。この事件が契機となって力道山が自分自身の民族的な出自を隠し通そうとし、それが彼の一連の異様な行動の遠因になっているという人物設定には映画としての説得力があると思う。

 映画を観る人が一番気になるのは、韓国人の俳優が力道山を演じる点にあると思う。台詞はほとんどすべて日本語で、しかも吹き替えを使っていない。ソル・ギョングの台詞回しは、やはり少し日本語としては違和感があるのも事実だ。しかしこの「違和感」が、逆にこの映画の力道山像に迫力を与えている。映画の中の力道山は言葉の人ではなく、まず体でぶつかっていく行動の人だ。感情が激昂すると言葉がわなわなと震え、全身で自分の気持ちを表現しようと身悶えする。どんな日本人より日本人らしい日本人になりきろうと努力しながらも、どこかで日本人という枠組みからはみ出してしまう破格の男。そんな力道山は、他のどんな日本人俳優が演じても嘘くさくなってしまったに違いない。不慣れな日本語で必死に力道山を演じようとするソル・ギョングの姿は、朝鮮人でありながら日本のヒーローでもあるという矛盾を生きた力道山と重なり合うのだ。

 現役プロレスラーが多数出演した試合シーンもすごい迫力。力道山・井村昌彦(木村政彦)コンビ対シャープ兄弟の試合や、力道山と井村の因縁試合などは、それが芝居とわかっていても血がたぎる。猪木や馬場は出てこないけれど韓国プロレスの立役者となった大木金太郎は出てくるぞ。

(英題:Rikidozan: A Hero Extraordinary)

3月4日公開予定 テアトル新宿ほか全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンターテインメント
2004年|2時間29分|韓国、日本|シネマスコープ|サイズ|ドルビー・デジタル
関連ホームページ:http://www.sonypictures.jp/movies/rikidozan/
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