シリアナ

2005/12/22 ワーナー映画試写室
世界の石油を支配するアメリカの欲望と戦略。
『トラフィック』の石油コネクション版。by K. Hattori

 元CIA職員だったロバート・ベアの著書「CIAは何をしていた?」を原作に、『トラフィック』でアカデミー賞を受賞した脚本家スティーブ・ギャガンが脚色・初監督した政治サスペンス映画。『トラフィック』同様複数の主人公を世界各地で同時に動かしていくスタイルで、石油権益確保のためになりふり構わないアメリカの姿を描く。描かれているのは数々の陰謀だ。しかしこの陰謀は、ひとりの黒幕(あるいはひとつのグループ)が仕切って全体を動かしているわけではない。それぞれ独立した個人やグループが、それぞれの都合や理屈で動いた結果、それが他の個人やグループに影響を与え、玉突きのように全体が関係し合いながら動いていく。映画は事実そのままではないが、登場する出来事のほとんどは、過去と現在において実際に起こったこと、起き得たこと、そしてこれから起きるかもしれないことを描いている。

 映画は主に4つのエピソードから構成されている。中東で数々の工作活動に従事してきたCIA職員ボブ・バーンズの物語。スイスにあるエネルギー商社でアナリストをしているアメリカ人、ブライアン・ウッドマンの物語。大手石油会社の合併に関わる弁護士、ベネット・ホリデイの物語。そしてパキスタンからアラブ某国に出稼ぎにきていた青年、ワシームの物語だ。この中で特に注目されるのは、4番目のパキスタン人青年の物語だろう。他の物語がすべて「アメリカ人」を主人公にしているのに対して、このエピソードだけは外国人が主役。しかもこの青年はイスラム原理主義組織に身を寄せ、そこで自爆テロリストになってしまうのだ!

 映画の一部とはいえ、アメリカ映画の主人公がイスラム原理主義のテロリストとはすごいことだ。しかもこの青年は、正直で真面目な好青年として描かれている。この映画は石油利権に群がる人間たちの欲望をグロテスクに暴き立てるため、そうした利権や欲望とはまったく無縁の世界を作ろうとするイスラム原理主義の主張が、高潔な理想主義に見えてくる。すべてはアメリカを中心とした資本主義の際限ない膨張に対する反作用なのだ。この映画は石油をキーワードにして、現在のアメリカが進めているテロとの戦いやグローバリゼーションという価値観をひっくり返してしまう。

 しかしこの映画を観終わった後、どこかしら迫力不足に感じるのはなぜだろうか。それは多分、この映画が石油利権に群がるアメリカの経済システムとその中枢にいる人々を批判しつつ、その利権を通じて安い石油を湯水のように使うアメリカ人の生活は批判から除外しているからだろう。例えばマット・デイモン扮する理想家のアナリストは、石油利権を巡るどろどろとした血なまぐさい現実にはね飛ばされ、平和な家庭という小さな世界に戻ってくる。しかしその平和は、そこで享受している豊かさは、彼をはじき飛ばした「利権」が生み出したものなのだ。

(原題:Syriana)

2006年2月公開予定 渋谷東急ほか全国松竹東急系
配給:ワーナー・ブラザース映画
2005年|2時間8分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|SRD、DTS、SDDS
関連ホームページ:http://www.syriana.jp/
DVD:シリアナ
DVD (Amazon.com):Syriana
サントラCD:シリアナ
サントラCD:Syriana
原作:CIAは何をしていた?(ロバート・ベア)
原作(文庫):CIAは何をしていた?(ロバート・ベア)
原作洋書:See No Evil (Robert Baer)
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