ディック&ジェーン

復讐は最高!

2005/12/20 SPE試写室
計画倒産でボロ儲けした社長にジム・キャリーが復讐。
軽く仕上げてはいるが暗い映画だ。by K. Hattori

 急成長のIT企業グローパダイン社に勤めるディック・ハーパーは、広報担当重役に大抜擢されて有頂天。これで大幅昇給は間違いなく、妻のジェーンも嫌な仕事をやめて主婦業と子育てに専念できる。しかしそれからほんの数日後、ディックは天国から地獄へと突き落とされる。グローパダイン社は不正な経理操作と株売買で巨額の赤字を抱えたまま倒産。社長のマカリスターは事態の発覚前に自社株を現金に換えたが、社員たちは紙屑となった自社株を手にしたまま世間の荒波へと放り出される。ハーパー家は夫婦揃って再就職さえおぼつかず、ローンを抱えたまま家を追い出されそうになる。思い余った夫婦はついに強盗稼業に手を染めるが、ふたりはそこで意外な才能を発揮して……。

 1977年にジョージ・シーガルとジェーン・フォンダが主演した『おかしな泥棒ディック&ジェーン』を、ジム・キャリーとティア・レオーニ主演でリメイクしたコメディ映画。映画冒頭の人物紹介からテンポよく物語を進め、苦笑・微笑・大笑・爆笑と各種笑いのポイントも多いのだが、映画が持つ暗さは払拭できなかったと思う。これはいわば「盗人にも三分の理」を地で行く映画なのだ。でもどんなに生活に窮しようと、それが強盗をする理由を正当化するはずがない。僕はオリジナル版の映画を観ていないのだが、同じ話も1970年代であれば、社会体制に対する弱者の反逆として時代的な共感を得られたのかもしれない。しかし西暦2005年に、この映画は観客の共感を得られるのだろうか?

 映画が正義や道徳を語れと言っているわけではない。犯罪映画では犯罪者がヒーローだし、彼らの活躍(つまり犯罪が成功すること)に観客は喝采を送っている。映画が犯罪者をヒーローとして描いたって一向に構わない。でも犯罪の背後に常に「生活の不安」があるというのは、あまりにも悲しいではないか。少なくとも僕は、主人公たちが強盗稼業で悪ノリする様子を面白がりつつ、どこかで気持ちが引けていることを感じる。

 お話自体は『おかしな泥棒〜』のリメイクというこの映画、じつは会社の不正経理や倒産にまつわるエピソードには実在のモデルが存在する。それは2001年に経営破綻し倒産したエンロンだ。この映画はそれに合わせて、映画の舞台をエンロン破綻直前の西暦2000年に設定しているし、映画の最後には主人公の元同僚がエンロンに再就職して大喜びするエピソードが用意されている。この映画は『おかしな泥棒〜』のリメイクというより、むしろエンロン事件(あるいはその後に起きたワールドコム事件)のパロディと言った方がいいのかもしれない。

 それにしても、大会社の重役があっと言う間に最貧民に落ちぶれる、アメリカ社会の恐ろしさ。平凡な小市民も、明日にはホームレスになるかもしれない。そんなアメリカの現実を描く映画が、そもそも明るくなりようがないではないか!

(原題:Fun with Dick and Jane)

12月24日公開予定 渋谷東急ほか全国ロードショー
配給:SPE
2005年|1時間31分|アメリカ|カラー|スコープサイズ|SDDS、SRD
関連ホームページ:http://www.sonypictures.jp/movies/funwithdickandjane/
DVD:ディック&ジェーン/復讐は最高!
DVD (Amazon.com):Fun with Dick and Jane
サントラCD (Amazon.com):Fun With Dick & Jane
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原作DVD (Amazon.com):Fun with Dick and Jane
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