SAYURI

2005/12/10 錦糸町シネマ8楽天地(シネマ4)
波瀾万丈の一代記だが、何がやりたいのか……。
日本でドラマ化すべき素材かも。by K. Hattori

 アーサー・ゴールデンのベストセラー小説「さゆり」を、『シカゴ』のロブ・マーシャル監督が映画化した話題作。原作と映画の原題は『Memoirs of a Geisha(ある芸者の想い出)』。戦前・戦後の日本を舞台に、貧しい漁村から花街に売られたひとりの少女が、周囲の引き立てと自分自身の才覚で芸者としてたくましく生き抜く一代記だ。日本を舞台にした物語は日本人キャストと日本語でと願った人も多いようだが、これはハリウッド映画。描かれる世界がどの国であろうとも、登場人物は英語を話す。外国文化を入念にリサーチしたとしても、その上でわかりやすくハリウッド風にアレンジしてしまう。

 結局この映画では、主人公のさゆりを中国人女優のチャン・ツィイーが演じ、先輩芸者ふたりをコン・リーとミシェル・ヨーが演じることになった。日本の女優では工藤夕貴が主人公の同輩芸者を演じているが、それよりも桃井かおりが置屋の女主人をふてぶてしく演じているのが印象に残る。少女時代のさゆりを演じた大後寿々花も今後が楽しみだ。『ラストサムライ』でオスカー候補になった渡辺謙は、主人公が憧れる「会長さん」をさらりと演じ、その共同経営者役で『Shall we ダンス?』の役所広司がハリウッド・デビューを飾っている。

 物語の舞台や時代背景は特定されていないのだが、半玉の芸妓を「舞子」と呼んでいることから、これが京都の花柳界を舞台にしているらしいことがわかる。途中で戦争の話も出てくるので、だいたい昭和10年前後から、日本がまだ米軍統治下にあった昭和20年代半ばまでの話だろう。花柳界のしきたりなど風俗描写や当時の社会情勢などは、それに馴染みがない人にはもわかりやすく描かれているように思うが、ところどころが微妙に違うような気もする。でもこれは「違うぞ!」と言う方が野暮。そもそもアメリカ人が戦前の花柳界をアメリカのスタジオで映画化しているのだ。きっちりと忠実に時代風俗を最善せよという方が無理な注文だと思う。

 言葉や風俗描写はとりあえず脇においても、僕はこの映画の狙いがよくわからなかった。さゆりと会長さんの屈折したラブストーリーとして見るにせよ、ひとりの女性の風変わりな立身出世譚として見るにせよ、エピソードやキャラクターが薄っぺらでまったく感情移入できないのだ。登場人物の多くは紙人形のようにペラペラで立体感がなく、陰影に乏しい。それは主人公のさゆりですら同じだ。劇中で生身の人間として生きていたのは、強烈なエゴを周囲に押しつけてサバイバルする桃井かおりぐらいではないのか。彼女だけは猛スピードで変化していく状況の荒波の中に、きちんと自分の両足で立っている。

 芸者風俗の紹介とストーリーの両方を追って、双方が中途半端になった印象。これは日本のテレビ局はこれを6時間ぐらいのミニシリーズにして、アメリカに売った方がいい。

(原題:Memoirs of a Geisha)

12月10日公開 丸の内ピカデリー、丸の内プラゼールほか全国松竹東急系
配給:ブエナ ビスタ インターナショナル(ジャパン)
2005年|2時間25分|アメリカ|カラー|DTS、Dolby Digital、SDDS
関連ホームページ:http://www.movies.co.jp/sayuri/
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