僕のニューヨークライフ

2005/12/08 メディアボックス試写室
軽いタッチの作品ながらウディ・アレン濃度は高い。
主演はジェイソン・ビッグス。by K. Hattori

 『アメリカン・パイ』シリーズのジェイソン・ビッグスと、若手人気女優クリスティーナ・リッチが出演する、ウディ・アレン脚本・監督作。共演にはアレン本人の他に、ダニー・デヴィート、ストッカード・チャニングなど。主人公はビッグス演じる若手のコメディ作家ジェリー。彼にはアマンダという女優の卵のような恋人がいるのだが、ここ半年ほどはセックスレスの関係になっている。マネージャーのハーヴィはジェリーの才能をうまく売り込むことができないくせに高額の手数料をとる業突張り。そんなジェリーの悩みにあれこれアドバイスをするのが、ウディ・アレン扮する先輩作家のドーベルだ。

 ウディ・アレンの映画では、登場する主人公は常にウディ・アレンだ。アレン自身が主演の場合は当然だが、他の俳優を主演させた場合も、その俳優はウディ・アレン風のしゃべり方や仕種でその人物を演じなければならない。今回の映画ではジェイソン・ビッグスが主人公のジェリーを演じているのだが、そのしゃべり方や仕種はそっくりウディ・アレンの正確なコピーになっている。彼がアレン演じるドーベルと会話をするシーンは、まるでコメディアンが鏡を前にして自問自答のコントを演じるような雰囲気になる。

 案外このドーベルという人物は、最初から最後まで主人公の「分身」として映画の中に登場しているのではないだろうか。ドーベルとジェリーは同じユダヤ系という共通点がある。ジェリーは自分の私生活についてあれこれドーベルに相談したりアドバイスをもらったりするが、ドーベルが自分の私生活を語ることはあまりない。学校の教師だというが、授業をしている様子は映画に登場しない。話している内容も、どこまでが本当でどこからが嘘かがわからない。この映画ではジェリーがカメラに向かって語りかける場面が何度もあり、いわば全体がジェリーの一人称の視点で作られている映画なのだ。そこで語られている内容は、常にジェリーの主観によって誇張されている。

 映画の最後に、ジェリーはドーベルの話が本当かどうかわからないと言っている。しかし映画を観ている側からすれば、そもそもドーベルという人物が映画に描かれ強いるような形で存在しているかどうかすら疑ってみる必要があるのかもしれない……。ドーベルはジェリーが作り出した架空の人物かもしれない。ジェリーが自分の想像力によって作った、架空の人生の師がドーベル。精神分析医は何もアドバイスを与えてくれないが、ドーベルは一風変わった、しかし力強い言葉でジェリーを励ましてくれる。

 しかしこの映画のジェリーは、やはり作者であるウディ・アレンの分身なのだ。古いジャズや古い映画が好きで、コメディ作家で、女性に翻弄されっぱなし……。これでは今の若い俳優を使って、ウディ・アレン映画のパスティーシュを作っているようにも見えてしまう。へんな映画だな〜。

(原題:Anything else)

1月公開予定 恵比寿ガーデンシネマ
配給:日活
2003年|1時間52分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.ny-life.jp/
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