ブラザーズ・グリム

2005/11/25 錦糸町シネマ8楽天地(シネマ2)
民話収集で有名なクリム兄弟が本物の不思議に出会う。
テリー・ギリアムにしては薄味。by K. Hattori

 1812年に初版が出た「グリム童話集」の作者兄弟が、本物の怪奇現象に出会ってその秘密に挑む冒険ファンタジー映画。現実のグリム兄弟は民話収集よりむしろ言語学者として名高かったそうだが、この映画ではそうした背景をまったく無視して、ふたりをインチキな仕掛けで迷信深い人々を騙す詐欺師チームにしている。民間伝承の豊富な知識を生かし、最新テクノロジー(あくまでも19世紀初頭のだが)を駆使した怪奇現象のイリュージョンで村人を震え上がらせては、それを解決して報奨金を荒稼ぎするグリム兄弟。しかし同じ頃、鬱蒼とした森に囲まれた小さな村で、少女たちが次々に行方不明になる事件が起きていた。事件を解決しようとするフランス軍はグリム兄弟を詐欺罪で捕らえ、この新しい怪奇現象偽装事件の真相を探るよう命じるのだが……。

 映画はグリム兄弟が民話収集や民話集出版に関わった時期がちょうどナポレオン戦争の真っ只中だったことに注目し、それを巧みに物語の中に取り込んでいる。フランス革命後に誕生した共和国政府は、何よりも科学と規律と理性を重んじていた。彼らにとって占領地ドイツは辺境のクソ田舎であり、そこに暮らす人間たちは古い迷信にとらわれた土民に過ぎなかった。彼らを科学と理性の光で啓蒙し、規律ある人間にすることこそが、新たな統治者であるフランスの役目。ここで生まれるのは、新旧世界の明確な対立だ。伝説や迷信が生活に溶け込み、森には聖霊や魔物が住んでいる、暗く混沌とした旧世界の名残を留めるドイツの森と村。最新鋭の火器で武装し、科学と合理性で無知蒙昧な旧世界を一掃しようとするフランス軍。こうした対立はそのまま主人公たちグリム兄弟にも及んでいる。兄は民間伝承を仕事のネタにして一儲けを企む合理主義者で、弟は民間伝承の中にある本当の不思議を探求しようとする夢追い人というわけだ。

 ただしテリー・ギリアム監督の詳細なリアリズム描写は、こうした新旧世界の対立を混沌としたものにしてしまった。新しい価値観や世界の象徴であるはずのフランス軍が、汗と垢と泥と埃にまみれたような薄汚れた制服に身を包み、まるで動く骨董品のようなありさまなのだ。これでは村人も軍人も見た目は似たりよったりになってしまい、映画の中に明確な対立軸が生まれない。ギリアム監督は明確な対立より「混沌」を好むのかもしれないが、この映画の場合は物語自体が作り出そうとする「対立」の図式とギリアム風の「混沌」が互いの個性を打ち消しあって、結局どちらも中途半端なものになってしまったのではないだろうか。ギリアム監督がこの映画を本気で撮るなら、脚本にもっと手を入れて、物語自体を混沌としたものにしておく必要があったと思う。そうすればグリム兄弟のキャラクターが前面に出て、混沌から物語をすくい上げる「作家」の誕生が際立ったのではないだろうか。

(原題:The Brothers Grimm)

11月3日公開 丸の内ルーブルほか全国松竹東急系
配給:東芝エンタテインメント
2005年|1時間57分|アメリカ、チェコ|カラー|サイズ|DTS、Dolby Digital、SDDS
関連ホームページ:http://www.b-grimm.com/
ホームページ
ホームページへ