最終兵器彼女

2005/11/25 スペースFS汐留
平凡な女子高生が突然「最終兵器」になったら……。
SF仕立ての純愛ラブ・ストーリー。by K. Hattori

 1999年から2001年までビッグコミック・スピリッツで連載され、その後テレビアニメやOVAになって人気を博した同名コミックを、フィギュア・マニアの世界を描いた『ブリスター』でオタク心をくすぐった須賀大観監督が実写映画化した作品。主演は前田亜季と窪塚俊介だが、ふたりとも演技に伸び伸びとしたところが観られなかったのは残念。ちせ役の前田亜希は、ものすごくチャーミングなカメラ写りをする時とそうでない時の差が激しすぎて気の毒だった。『火火』の好演がまだ印象に残る窪塚俊介も、最初から最後まで変声期の少年のように不安定でくぐもったボソボソ声で、とても映画の主役とは思えない発声。しかもその声でモノローグまでしゃべるのだから、映画までがくぐもってボソボソした印象になってしまった。僕は原作もアニメ版も未見なので「イメージが合わない」とは言いにくいのだが、全体にキャラクターと俳優たちがしっくり馴染んでいない印象を受ける。

 物語の舞台は北海道の小樽。高校3年生のシュウジは、同学年のちせから告白されて彼女と付き合うことになる。でも「付き合う」と言っても、具体的に何をしていいのかよくわからない。とりあえず交換日記を始めたものの、親友のアツシからはそれをひどくバカにされてしまう。ある日アツシら友人たちと札幌に出かけたシュウジは、突然街が空襲される現場に遭遇する。その時敵の飛行機を撃退してシュウジを助けたのは、背中から機械仕掛けの翼を生やし、右腕を銃火器に改造したちせだった。彼女は外国の軍隊から日本を守るため、自衛隊によって肉体を改造された「最終兵器」だったのだ……。

 自分たちのまったく知らないところで日本が戦争に巻き込まれているが、完璧な情報管制によってそれが小樽市民にはまったく伝わっていないという設定や、ちせが改造人間になったいきさつを説明するくだりは無茶苦茶な話。この物語の中心部にある設定は、「そんなバカな!」というものばかりなのだ。しかしその「バカな!」を承知で、この映画はすべての設定を観客に押しつける。そこには下手な小細工や言い訳が一切ない。この潔さが、僕は結構好きだ。これはハリウッド映画の世界で、どこの世界に行っても英語が通じるのと同じことだろう。まずはこれを飲み込まないことには、話が次に続かない。虚構は虚構でいい。問題はこうした虚構の中で、何を語るのかだろう。

 この映画でテーマになっているのは、高校生同士のぎこちない恋愛だ。好きな人がいて、付き合いたいと思う。でも付き合うといっても、具体的に何をすればいいのかわからない。些細なことで傷ついたり、誤解したり、仲直りしたり。そんな幼くて不器用な恋愛模様が丁寧にリアルに描かれている。

 人気コミックの実写映画化で、製作配給が東映というお膳立てから『デビルマン』の悪夢再来を心配したが、それはどうやら杞憂だった。

2006年1月28日公開予定 銀座シネパトス、渋谷シネアミューズ、新宿ピカデリー4ほか
配給:東映
2005年|2時間|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.saikano-movie.com/
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