エリザベスタウン

2005/11/20 錦糸町シネマ8楽天地(シネマ7)
キャメロン・クロウ監督が描く田舎町の美しさ。
キルスティン・ダンストは最高!by K. Hattori

 シューズメーカーの若きカリスマ・デザイナーだったドリューは、新作シューズが大コケした責任を問われて会社を解雇される。すべてを失い自殺を考えた彼のもとに、実家から取り乱した声の電話。父が故郷であるケンタッキー州のエリザベスタウンで、心臓発作のため亡くなったというのだ。彼は一家の長男として父の故郷を訪ね、葬儀を行わなければならない。暗い気持ちで飛行機に乗り込んだドリューは、そこで客室乗務員のクレアと出会うのだった……。

 『ザ・エージェント』や『あの頃ペニー・レインと』のキャメロン・クロウ監督最新作で、主演は『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのオーランド・ブルームと、『スパイダーマン』シリーズのキルスティン・ダンスト。主人公の母親役でスーザン・サランドンが出演し、最後にすごい見せ場を作る。僕は『シングルス』以来のクロウ監督ファンだが、彼の映画にしては、今回は物語にちょっとギクシャクした部分があるように思えた。映画のあちこちに、強引にストーリーを進めていくことによって生じた引きつりがあるのだ。

 以前のクロウ監督の映画なら、こうした引きつりもキャラクターの魅力だけでひょいひょいと軽く飛び越えて行ったように思う。多少強引な筋運びが見えても、「これはこういう人なんだからしょうがない」と思わせるだけの、キャラクターの説得力があった。しかし今回は、それがうまく行っていない感じだ。とにかく映画のあちこちに、「なんで?」という疑問符が多すぎる。例えば主人公が会社を破産させたという冒頭のエピソードにしても、彼が単独でシューズを開発し、上部の決済も得ぬまま独断で生産ラインに指示を出したわけではないだろう。責任の所在を、ひとりのデザイナーだけに負わせるのは無理がある。父が死んだあと、主人公の母と妹がエリザベスタウンに行けない事情もわかりにくい。そして最大の謎は、キルスティン・ダンスト演じるクレアだ。彼女はなぜ主人公の世話を焼き、どうやってあの「地図」を作ったのだろう。他にも映画の中で「今のはなぜ?」と思うシーンが多々あり、映画を観ながらその都度ハタと考え込んでしまった。

 ひょっとするとこの映画は、最初から「物語」そのものにはあまり興味がないのかもしれない。とりあえず「エリザベスタウン」という場所に、悪意のない好人物ばかりをたくさん集めておいて、そこでいろんな事件を起こして人間関係を引っかき回してみると何が起きるのか……。お話としては、たぶんその程度のものなのではないだろうか。主役はエリザベスタウンと周囲の風景や人情であって、主人公一家はその案内人だ。主人公の父親がエリザベスタウン出身という設定は、今は都会に暮らして最先端の仕事をしている人たちも、ルーツをたどればアメリカの小さな田舎町にたどり着くんだよ……というメッセージになっているのかも。その象徴がクレアなのだ。

(原題:Elizabethtown)

11月12日公開 日劇1ほか全国東宝洋画系
配給:UIP
2005年|2時間3分|アメリカ|カラー|DTS、ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.e-town-movie.jp/
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