DEAR WENDY

ディア・ウェンディ

2005/11/09 メディアボックス試写室
自分を勇気づけるため銃を持つ平和主義者の若者たち。
銃と米国社会にまつわる寓話。by K. Hattori

 『ダンサー・イン・ザ・ダーク』や『ドッグヴィル』のラース・フォン・トリアーが脚本を書き、『セレブレーション』のトマス・ヴィンターベアが監督した、現代アメリカの寓話。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』や『ドッグヴィル』同様、物語の舞台はアメリカの架空の町に設定されている。外界との交流がほとんど閉ざされているこの小さな田舎町の中に、銃社会である現代アメリカの縮図を作り込もうという趣向だ。

 さびれた炭鉱しか産業がなく、男なら誰もが炭鉱夫になるものと信じられている小さな町。しかし主人公ディックはその仕事に馴染めず、町の雑貨店で働き始める。これはその町の中で、負け犬として生きることを意味していた。だがディックは「ウェンディ」と出会うことで変わる。彼女を町のちっぽけなギフトショップで見つけた時、それは古ぼけたオモチャの拳銃に見えた。だが同僚のスティーヴィーはそれを本物の拳銃だと教え、自作の弾丸もプレゼントしてくれる。町外れの工場跡地で、互いの銃を使って射撃の腕を研くふたり。やがてふたりは町にいる他の「負け犬」たちを集めて、平和主義にもとづく秘密の銃愛好家クラブを結成する。「ダンディーズ」と呼ばれる秘密結社めいたそのクラブに属することで、町の負け犬たちは力強いオトナへと変身するのだ。

 社会の負け犬が銃武装することで自信を得るという設定は、マイケル・ムーアの『ボウリング・フォー・コロンバイン』を生むきっかけとなった、1999年の「トレンチコート・マフィア事件」を連想させる。トレンチコート・マフィアは黒いトレンチコートやナチス式敬礼などで自分たちの特権性と強さをアピールしていたわけだが、この映画のダンディーズは西部劇に出てくるようなファッションとアンティークの銃というスタイル。仲間内だけで通じる隠語や特別なしゃべり方で結束を固めている。また平和主義者を唱える集団が銃武装して警官隊と派手な銃撃戦をするという設定は、1993年に起きた「ブランチ・ダビディアン事件」を思い出させる。この映画そのものはもちろんフィクションだが、そこに描かれている出来事そのものは、実際に起きた出来事をなぞっているのだ。

 映画はこうした一連の出来事を、主人公ディックの一人称で語っていく。物語のほとんどは、ディックが愛銃ウェンディに宛てた手紙という形式をとっている。その手紙の口調は、ほとんどラブレターだ。じつはこの映画の中では、人間同士の性的な関係が巧妙に排除され、人間が銃に対して抱くフェティッシュな幻想だけが、エロス的なパートナー関係となる仕掛が施されている。ダンディーズのメンバーにも女性はいるが、彼女は他のメンバーからほとんど「女性」として意識されていない。彼らは一途に銃だけを愛し、その銃に愛されたと信じ、その愛に殉じていく。この映画は古典的な悲恋ドラマの辛辣なパロディでもあるのだ。

(原題:Dear Wendy)

12月上旬公開予定 シネカノン有楽町、アミューズCQN
配給:ワイズポリシー、シネカノン 宣伝:楽舎
2005年|1時間45分|デンマーク|カラー|1:1.66ヨーロピアンビスタ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.wisepolicy.com/dear_wendy/
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