ザ・コーポレーション

2005/11/01 UPLINK FACTORY
モラルなき資本主義が地球資源と人類の未来を食いつくす!
企業社会を批判するドキュメンタリー。by K. Hattori

 ここ数年、欧米では国際的な経済会議が開催されるたびに、会場周辺が「反グローバリズム」の運動家たちで埋め尽くされる。しかし日本にいると、彼らがいったい何に反対しているのかよくわからない。テレビの解説者のコメントも、どうも要領を得ない。「何にでも反対する人たちはいるんです」とか、「海外から安い商品が入って職が奪われることを心配しているんです」とか、そんな発言でお茶を濁している。しかしこれは、じつは大変なことなのだということが、この映画を観るとよくわかる。

 本作『ザ・コーポレーション』は、国際化・多国籍化を進める現代の大企業が、効率と利潤を求めていかに非人道的な活動をしているかを告発している。しかし「大企業は悪だ!」「大企業は人民を搾取している!」というだけでは、時代後れの左翼運動家と何も変わらない。この映画の面白さは、大企業という「法人」を、そこで働く「個人」と同じように精神分析していくという切り口にある。それによれば、大企業は他人への思いやりがなく、人間関係を維持できず、他人への配慮に無関心で、利益のためには平気で嘘を続け、しかも罪の意識がなく、社会規範や法に従えない、完全なサイコパス(人格障害)なのだという。映画ではその臨床事例(?)を具体的な事件や出来事を通してひとつひとつ紹介しており、映画を観る人はその診断に反論できなくなってしまうだろう。

 かつての共産主義革命家は、大企業の悪は特権的な資本家が労働者を搾取することだと考えた。ところが現在世界の市場を牛耳っている株式会社の多くには、暴利をむさぼる特権的な資本家など存在しない。会社の所有者は世界中に散らばる顔の見えない「株主」であり、経営者たちは顔の見えない株主に雇用されている身分に過ぎない。株主と経営者が共に求めるのは「会社の利益」のみ。株式会社という仕組みが株主と経営者の双方を縛り、会社を経済的な利益だけを求めるモンスターする。経済システムの中で肥大化し、力をつけたモンスターの動きを、もはや誰も止められない。

 企業は生産拠点を人件費の安い発展途上国に移し、現地の労働力や資源を使い捨てにする。これはじつに効率のいい植民地支配だ。かつて植民地を支配した宗主国は、その国に暮らすすべての人たちの生活全体に責任を持たねばならなかった。しかし大企業にそうした責任はない。企業は労働法規の整備されていない国々に目をつけて、年端もいかない子供を安い賃金で長時間労働させる。そしてその国の人件費が上昇してくれば、また別の国に生産拠点を移して同じことをする。これはひどいことだ。でも誰もそれを止められない。

 世界中で人や物や金の動きが自由化することで経済活動が活発化するのはいいことだと、何となく考えていた僕はまったくの無知でした。戦争などより、これはよほど深刻な事態ではなかろうか。

(原題:The Corporation)

12月公開予定 UPLINK X/FACTORY
配給:アップリンク
2004年|2時間25分|カナダ|カラー|1:1.85
関連ホームページ:http://www.uplink.co.jp/corporation/
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