ベルベット・レイン

2005/08/05 映画美学校第2試写室
香港の黒社会を舞台にした命懸けの友情の物語。
ジャッキー・チュンが素晴らしい!by K. Hattori

 大ベテランのアンディ・ラウとジャッキー・チュンに、若手のショーン・ユーとエディソン・チャンがからむ黒社会もの。物語はアンディ&ジャッキーのパートと、ショーン&エディソンのパートに分けられ、それが交互に少しずつ進行して「ある一晩」の物語を語っていく。ふたつのパートは最終的に合流するのだが、そこにある仕掛けが用意されていて、映画を観ていて「おお!」と驚くようになっている。この映画はテーマ云々より、この仕掛けを面白がる映画だと思う。

 原案・監督はこれが商用映画デビュー作だというウォン・ジンポー。原案・脚本のトウ・チーロンは映画学校で学ぶ女子学生だという。プロデューサーは監督の前作に出演していたエリック・ツァン。インディーズ出身監督の商業映画デビュー作にしては異例の豪華キャストが実現したのは、エリック・ツァンの貢献が大きいのだと思う。(ちなみに主演のアンディ・ラウは製作総指揮にもクレジットされている。)

 黒社会の大ボスとして裏世界に君臨してきたホンに、命知らずの殺し屋が放たれた。殺しを請け負ったのは若いチンピラ。雇ったのは部下の誰かだろう。ホンは信頼できる弟分のレフティと共に、人気のないレストランに身を隠しつつ、殺しを命じた黒幕が誰かを探る。だがレフティはこうした慎重なやり方を好まなかった。「怪しいものは皆殺し!」がレフティ流なのだ。同じ頃、クラブのくじで大物殺しの仕事を請け負った青年イックは、相棒のターボと銃を手に入れると仕事に取りかかるチャンスをうかがう。クラブで会った若い娼婦ヨーヨーとの短い交流。おそらく仕事にかかれば、生きて帰れることはないだろう。でももし万が一生き延びることができれば……。

 ロジカルでトリッキーなストーリー運びが先に立って、登場人物たちの感情の動きを語る部分が弱いのは残念。しかしそもそもこの映画は、人物の感情や気持ちを読み解いていく映画ではないのだ。そんなことをしたら、映画の終盤にある仕掛けがバレでしまう。この映画では、登場人物たちの言動がいつも少しずつ謎めいていて、本音が読みきれないところがミステリアスで面白い。最後の最後になって、彼らの本当の気持ちがパッと明かされるところにカタルシスがある。

 そんなわけでキャラクターの魅力にやや乏しい映画前半なのだが、そこを俳優たちがうまくフォローして人物に肉付けしている。言葉や行動の背後にある「本音」の影を、ちょっとした表情や仕種で観客に感じさせるのだ。主人公たちを演じた4人の俳優たちの中では、レフティを演じたジャッキー・チュンがいい。組織のボスのために最初から命懸けで尽くしてきたものの、結局は組織の中からはみ出しかけている男の焦りと悲しみが、痛みのオーラとして映画を観ている側にまで伝わってくる。最近は歌手活動が忙しいようだが、もっと映画に出ていい俳優だろう。

(原題:江湖)

10月8日公開予定 シネ・リーブル池袋、新宿オスカー、銀座シネパトス
配給:日活
2004年|1時間25分|香港|カラー|ビスタ
関連ホームページ:http://www.nikkatsu.com/movie/velvet/index.html
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