ヘイフラワーとキルトシュー

2005/08/02 松竹試写室
自然の中で伸び伸びと成長していく少女たち。
フィンランドの児童文学を映画化。by K. Hattori

 フィンランドで人気の児童文学シリーズ「Heinahattu ja Vilttitossu」を実写映画化したもの。7歳の姉ヘイフラワーと幼い妹キルトシューを主人公に、その両親や近所の人々の交流を描くお話だ。雰囲気としてはスウェーデン映画の『ロッタちゃん』ものみたいな感じだけれど、それよりは現実と距離をとったファンタジー色の強いものになっている。主人公たちが泣いたり笑ったりふくれっ面をしたりする様子は、なかなかの見もの。しかし僕は『ロッタちゃん』ほどには、映画に入り込めなかった。あくまでもこれは、子どもがターゲットの映画なのだ。大人が観て「かわいいな〜」とは思っても、そこで描かれている問題にいちいち感情移入はできない。

 それでも僕がこの映画で面白いと思ったエピソードがひとつある。それは主人公姉妹の母親が、「家事をやるなんて真っ平! 私は仕事がしたいのよ!」と夫に言う場面。この母親が仕事に戻るか否かというのが、この映画ではひとつのテーマになっている。結局その結論は最後まで出ないのだが、仕事か家庭かというこの母親の葛藤は、子供を持つ日本のお母さんたちにも自分たちに近い話題として伝わるのではないだろうか。もっとも、この映画ではそれが最大のテーマではないので、この問題はあまり深く掘り下げられていない。これがもう少しきちんと整理されていると、子供も大人も楽しめる映画になったと思うんだけど……。

 映画はお姉さんのヘイフラワーの視点で描かれていて、彼女が家事の苦手な母に代わって一所懸命家の手伝いをしたり、妹の世話を焼いたりする様子は健気すぎて、観ていて不安になってくるほど。だから彼女が妹のわがままと、それを受け入れてしまう両親に腹を立てて反乱を起こすシーンは、心の中でヘイフラワーを応援してしまった。でもこれがまた痛々しいのだ。そんなことをしていても何も解決しないということを、たぶんヘイフラワー自身が一番よく知っている。それでも、彼女はそうせずにはいられなかった。彼女のそんな気持ちを、誰も理解してくれない。悲劇だな〜。

 原色の衣装を着た隣の中年姉妹や、人のいいお巡りさんなど、奇妙なキャラクターが次々に登場する映画はほのぼのタッチ。しかしそこに描かれているのは、オブラートのかかっていない生々しい現実。このギャップが、僕には最後まで馴染めなかった。子供と遊ぶことを決めた母親の取ってつけたような髪形とわざとらしいはしゃぎぶりを観て、僕はかつみ・さゆりの尾崎小百合(ボヨヨ〜ン!)を思い出してしまった。DVDで日本語版を作る際は、両親役をかつみ・さゆりにやらせるとピッタリかもね。

 北欧のフィンランドは人口密度もまばらで、暮らしの中は自然が一杯。映画を観ていて何より魅力的に思えたのは、自然の懐に抱かれたようなこの生活ぶりだ。

(原題:Heinahattu ja Vilttitossu)

10月公開予定 シネ・リーブル池袋
配給:アンスールピクチャーズ、イフ・エンターテインメント
宣伝:シンカー・プロモーション
2002年|1時間12分|フィンランド|カラー|ビスタサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.hayflower.com/
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