バタフライ・エフェクト

2005/07/01 シネマスクエアとうきゅう
過去を改変して望ましい未来を得ようとした青年は……。
要するにアメリカ版の「ドラえもん」。by K. Hattori

 小学生の頃からしばしば記憶が途切れる発作に襲われるエヴァンは、大学生になって、自分に特殊な時間遡行能力が備わっていることを知る。記憶障害はその能力の副作用なのだ。エヴァンはこの能力を使って過去の出来事を改変すれば、現在の自分の境遇から逃れ、友人たちの不幸も防げるはずだと考える。だがそんな彼の試みは次々に失敗して……。

 タイトルの『バタフライ・エフェクト』とは、チョウが羽ばたくと地球の裏側で台風が起きるかもしれないという、カオス理論の有名なたとえ話。この映画の中では主人公のエヴァンが過去に戻れる時間はいつもほんの数分に過ぎない。その短時間で彼が何をするかで、未来は劇的に変化するのだが、その変化は主人公の予想と期待を常にはみ出している。自分が作った未来に、エヴァンはいつだって満足できない。自分の力を使えば周囲の誰もが幸せになれるはずなのに、実際には誰かがより悲惨な貧乏くじを引く羽目になるのだ。

 人間は自分ひとりに与えられた、ただ一度の人生を歩むことしかできない。「あの時にこうしていれば」とか、「あの頃に別の選択をしたら」と後悔することは誰にでもあると思うが、現実は「後悔先に立たず」で、あとから過去の行動を改めることは誰にもできない。ところが、この映画の主人公は違うのだ。彼は「あの時」や「あの頃」に戻って、その瞬間をやり直すことができる。でも彼ができるのはそこまで。その選択のあとにどんな出来事が起きるのかを、すべてコントロールすることはできない。

 過去をいじって未来に変更を加えるというアイデアは、わが国が誇る偉大なSF作家、藤子・F・不二雄の代表作「ドラえもん」でもしばしば取り上げられたモチーフであり、それ以外の作品でも何度か試みられているはず。よかれと思って行った過去の変更によって、主人公が思わぬしっぺ返しを受ける話はまさに「ドラえもん」的なセンスと呼ぶしかない。『バタフライ・エフェクト』はシリアスな話だが、主人公はのび太、ヒロインのケイリーはしずかちゃん、暴力的なトミーはジャイアン、気弱なレニーは、性格こそ違うがスネ夫的なポジションだろうか。主要登場人物が4人というのも「ドラえもん」と同じ。ただしひどく暗くて悲惨な「ドラえもん」だ。なお主人公に時間遡行の力を与えるドラえもんの位置にいるのは主人公の父親で、登場人物の中ではこの人が一番悲惨です。結局は最後の最後まで、この人にだけは何の救済もないしね。悲しいな、ドラえもん……。

 監督・脚本は『デッドコースター』のエリック・ブレスとJ・マッキー・グラバー。主演は『ジャスト・マリッジ』のアシュトン・カッチャーだが、むしろ見どころは、些細な状況の変化で幸福の絶頂と不幸のどん底を行ったり来たりする周囲の人々の変貌ぶりだろう。一番すごいのはレニー役のエルデン・ヘンソンで、シーンによって体型まで違う!

(原題:The Butterfly Effect)

5月14日公開 シネマスクエアとうきゅう
配給:アートポート
2004年|1時間54分|アメリカ|カラー|1.85:1|DTS-ES、Dolby EX 6.1、SDDS
関連ホームページ:http://www.butterflyeffect.jp/
DVD SpecialShop DiscStation 7dream_88_31 TSUTAYA online
ホームページ
ホームページへ