CDラジカセを大音量で鳴らし、布団を叩きながら「引っ越しーッ、引っ越しーッ」などと叫び続けた奈良県の主婦と、自治会の夏祭りでカレーに砒素を混ぜて住人たちに食べさせたという和歌山毒物カレー事件。どちらも今日のニュースで話題になっていた裁判だが、共通点は、近所付き合いのこじれが事件にまで発展したという点だ。この『おまけつき新婚生活』も似たような話で、近所付き合いの難しさや悩みは万国共通だということがわかる。
ニューヨークで暮らす新婚カップルが、不動産屋の紹介で手に入れた優良物件。それはブルックリンにある、広さも環境も十分の二世帯型住宅だった。2階でずっと借家住まいをしているのは、推定年齢95歳オーバーというコネリー夫人。ところが新居を買って彼女とひとつ屋根の下で暮らし始めた若い夫婦は、間もなくこの老人のとんでもない生活ぶりに自分たちの平穏な暮らしを脅かされ始めるのだ。夜中になると連日のように鳴り響くテレビの音。昼間はあれこれと夫婦に用事を言いつけ、週末になると仲間たちとブラスバンドの練習が始まる。家で仕事をしている夫のアレックスは仕事が手につかなくなり、妻のナンシーも職場にまでかかってくる夫人からの電話に悩まされる。夫婦は夫人の態度にいらだち、ついには殺意に似た感情を抱くようにすらなるのだが……。
主演はベン・スティラーとドリュー・バリモアで、共に製作も兼ねている。監督はダニー・デヴィートだが、彼にとっては『鬼ママを殺せ』や『ローズ家の戦争』ともつながる「ひとつ屋根の下の犯罪」を扱ったコメディ。もともとこの手の話が好きで、得意でもあるのだろう。コネリー夫人を演じるのはアイリーン・エッセルというイギリスの女優だが、最初はか弱い孤独な老人に見えた人物が、徐々にモンスターのような本性をあらわにしていく姿の恐いこと! キャラクターが突如豹変するのではなく、薄皮を剥いでいくように少しずつ少しずつ素顔が見えてくる構成の上手さ。この映画の面白さの半分以上は、こうしたコネリー夫人の変身にあると思う。
主人公夫婦は気の毒な被害者なのだが、それが同情や哀れみではなく笑いの対象になるのは、彼らが宿敵コネリー夫人に対して非合法な反撃を企てるからだ。コネリー夫人も変わった人物だが、大家になった若夫婦もズルをしている。ここでは「どっちもどっちの法則」がうまく働いて、双方ともに観客から笑われることになるのだ。またこの騒動を通して若い夫婦の関係に波風が立つものの、やがて共通の敵の存在によって団結を強めていくのもいい。この夫婦は悲惨な目にあったが、ひょっとしたら前より幸せになったのかもしれないのだ。
最後のオチが優れている。これによってコネリー夫人がただの奇人変人ではなくなり、むしろ痛快な余韻が残る映画になった。まあそれでも、こんなご婦人とのお付き合いはゴメンだけどね。
(原題:Duplex)