バットマン ビギンズ

2005/06/24 錦糸町シネマ8楽天地(シネマ1)
新たに世界観を仕切り直した映画版『バットマン』最新作。
バットマン神話の新たな創世記。by K. Hattori

 89年から始まった映画版『バットマン』シリーズの最新作だが、前作から8年ぶりとなる本作は、これまでの映画を一度捨てて新しく仕切り直した新生『バットマン』の誕生となった。これはバットマン誕生の秘密に迫った「エピソード1」ではない。新しいバットマンが、この作品から始まる(Begin)のだ。そのため過去の映画と合わない設定も出てくる。映画1作目で主人公の両親を殺したのはジョーカーだったが、今回の映画では貧しいピストル強盗になっている。こうした設定の変更を映画の冒頭近くに置くことで、映画は観客に対して「今度の『バットマン』はこれまでと別の話ですよ」と宣言しているのだ。

 日本では渡辺謙のハリウッド映画出演2作目という点が話題になっている映画だが、今回彼の役はほんのチョイ役でがっかりさせられる。しかしこれは、そもそも他の俳優が豪華すぎるのだ。ここ数年で、これほどオジサン俳優の層が厚くて豪華な映画は観たことがない。執事役きマイケル・ケイン、研究者役のモーガン・フリーマンはオスカー俳優。主人公の師匠となるリーアム・ニーソン、悪の帝王役のトム・ウィルキンソン、警官役のゲイリー・オールドマン、父親役のライナス・ローチ、会社重役を演じたルトガー・ハウアーなども、映画ファンなら誰もが知る役者たちだ。この強烈なアンサンブルの中で、渡辺謙は短い出演シーンながら十分に強い印象を与えることに成功していると思う。

 今回の映画でバットマンの前に立ちはだかるのは、世界平和のために犯罪と戦う秘密結社だ。彼らは悪の巣窟と化したゴッサムシティを滅ぼすことを、正義だと考えている。麻薬を使って人間に恐怖心を克服させ、自分たちの正義のためなら殺戮も厭わないというその秘密結社は、アサシン(暗殺者)の語源となった秘密結社ニザール派だろう。ニザール派はイスラム教の過激派組織だが、映画でそれがアジア風の意匠に変更されているのは、昨今の国際政治状況をかんがみてのこと。ゴッサムシティはニューヨークだが、イスラム過激派がニューヨークにテロを仕掛けるという話では、あまりにも生臭すぎる。

 悪徳の町を滅びつくすという設定は、旧約聖書の創世記で神に火に滅ぼされたソドムの町を連想させる。つまりゴッサムシティを攻め滅ぼそうとする秘密結社は、ここで自ら神の力の代行者になろうとしているわけだ。映画の終盤は9.11テロの巧妙なパロディ。敵は飛行機ではなくモノレールを乗っ取り、都市を象徴する巨大なビルに突っ込んでいく。しかしこの映画では、恐怖(テロ)は外から来るのではなく、自分たちの中に恐怖の種があるのだと言う。自分たちの抱く不安や恐怖に正気を失った人々は、その恐怖から逃れるように殺し合いを始めるのだ。『バットマン ビギンズ』が描くのは、対テロ戦争に狂奔する現代アメリカ社会と政治そのものなのかもしれない。

(原題:Batman Begins)

6月18日公開 丸の内ピカデリー1ほか全国松竹東急系
配給:ワーナー・ブラザース映画
2005年|2時間20分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|DTS、Dolby Digital、SDDS
関連ホームページ:http://wwws.warnerbros.co.jp/movies/batmanbegins/
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