難攻不落の要塞のような邸宅に、人質を取って立てこもった若者グループ。地元の不良グループが行き当たりばったりに強盗に入り、警報装置と警察に動転した結果起こした事件だった。地元警察のジェフ・タリー署長は捜査や犯人グループとの交渉を郡警察に譲ってさっさと現場から離れるが、そんな彼に武装した男たちのグループが接触し、捜査に戻って邸宅からあるモノを持ち出せと命令する。このグループは完璧なプロフェッショナルで、タリーを脅す材料として、彼の妻子を人質に取っているのだ。タリーはあわてて現場に戻り、犯人グループと交渉を始めるのだが……。
ブルース・ウィリス主演のサスペンス映画で、監督は『スズメバチ』のフローラン・シリ。若者グループが立てこもる建物に、重武装のグループが襲いかかるという展開は『スズメバチ』にもつながるが、それよりもこの映画に似ているのは『ダイハード』だろう。テロリストに乗っ取られた高層ビルを強盗グループが立てこもる邸宅に置き換え、人質になった家族を心配しつつテロリストの目から逃れて外と連絡を取ろうとする主人公を、同じように家族を人質に取られた小さな男の子に置き換える。過去の誤射事件がきっかけで銃が撃てなくなった黒人警官に相当するのが、ブルース・ウィリスが演じたジェフ・タリーだ。彼は立てこもり犯との交渉に失敗して心に傷を受け、田舎町に引き込んだ元交渉人という設定だ。
主人公のタリー署長には、「人質の少年を助けなければならない」という重圧と、「人質になっている家族を助けなければならない」という二重の重圧がかかる。タリーは映画冒頭に登場する事件で、人質の少年を助けられなかったことが負い目になっている。犯人の目を逃れてまだ幼い少年がタリーに直接連絡してきたことは、彼の強い負い目と即座に結びついたはずだ。しかしもう一方で彼は、自分の都合で別居することになった家族が凶悪な武装グループに捕らえられたという重圧も感じている。人間は同時に2ヶ所で痛みを感じることができない。この映画では主人公タリー署長に対するふたつの重圧が同時進行して、結局は痛みがふたつとも曖昧になっているような気がする。
映画の中で面白かったのは、主人公がいかにして事件を解決するかというストーリーよりも、突然立てこもり事件の主役になってしまった若者グループの人間関係だった。これは各キャラクターもよく描けている。流れ者の男は張り合うように事件を引き起こす兄デニス、兄を慕って事件に巻き込まれる弟ケヴィン、兄弟の陰に隠れて事件全体を最後まで支配し続ける死神のような若者マース。集団心理で3人の行動がエスカレートする様子も、そこから抜け出したくても抜け出せなくなってしまう事情もとてもリアルに感じられ、日本でもたびたび起きる凶悪な少年事件も、内情はこんな感じなのだろうと思わせる。
(原題:Hostage)
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