マダガスカル

2005/06/08 アスミック・エース試写室
都会の動物園で快適な生活を満喫していた動物たちだが……。
ドリームワークスの長編アニメ。by K. Hattori

 都会の動物園で快適な生活を満喫している動物たちが、思いがけず大自然の中に追い出されて大冒険をする羽目になるというお話。物語の上では主人公たちのサバイバルにまつわるドタバタ・アクションがクライマックスになっているのだが、映画の狙いはむしろ、「野生よりも動物園を好む動物たち」という皮肉にあるのだろう。本物の野生の中に解き放たれた動物たちは、何とかして都会の動物園に戻りたいと願う。故郷の南極を目指して積極的に動物園からの脱走を企てたペンギンたちも、南極の寒さに耐えられず、南国のマダガスカルを快適だと感じる。一度野生から切り離されてしまった動物たちは、もう二度と本物の野生には戻れないのだ。

 この映画に登場する主人公たちは、都市という人口的な空間で暮らす人間たちのカリカチュアかもしれない。世の中には「自然の中で暮らすのがいい!」と田舎暮らしを満喫している人たちもいるが、都会暮らしに慣れきってしまった人たちの多くは、もう田舎暮らしには戻れないのが現実だ。たまに帰省したとしても、生活の基盤は都市から離れられない。地方から都市へという人口の移動は大きな流れとしては一方通行で、決して逆戻りできないのだ。

 あるいは別の見方をするなら、ここに登場する動物園を「会社組織」のメタファーと解釈することもできそうだ。主人公たちは安定したサラリーマン生活から、無理やりフリーランスの生活を強いられることになる。フリーの気ままな生活は、その一方で食べていくことの不自由さという問題を抱えざるを得ない。マダガスカルに流れ着いた主人公たちが、そこを動物園だと信じて人間たちを探し回るエピソードには苦笑いするしかない。組織の中で花形だった者が、フリーの生活でもそのまま花形になれるとは限らない。動物園で万雷の拍手と歓呼の声で観客を魅了したライオンのアレックスが、ひとり寂しげに仲間のもとから離れていく姿は悲しい。

 野生を忘れた動物たちが嫌々ながら野生に戻されて……というお話の先に、「やっぱり野生が一番!」という結論を持ってこないところがスゴイ。しかし上記のような比喩を映画に読み取ったからには、この結末も当然だと思う。動物たちは最後まで動物園を目指す。それは都会人がやはり都会での暮らししか選べないのと同じだし、サラリーマンの多くがそれ以外の生活に適応できないのと同じだろう。

 ファミリー向けのアニメーション映画だが、この映画を観る大人の多くは、ここに登場する動物たちの中に自分自身の姿を見つけることだろう。都会派ライオンのアレックス、野生に憧れるシマウマのマーティ、キリンのメルマンは心配性、カバのジェイダは仲間たちのまとめ役。それぞれの個性がじつに魅力的だ。映画の後半に登場するキツネザル(マダガスカルを代表する動物)の群れは、その日暮らしの幸せを享受する小市民たちの戯画にも見える。

(原題:Madagascar)

8月公開予定 全国松竹東急系
配給:アスミック・エース 宣伝:楽舎
2005年|1時間26分|アメリカ|カラー|ビスタ
関連ホームページ:http://www.madagascar.jp/
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