愛についてのキンゼイ・レポート

2005/06/08 松竹試写室
現代性科学の基礎をを作ったキンゼイ博士の伝記映画。
リーアム・ニーソンが主人公を熱演。by K. Hattori

 1948年と53年に発表された世界で初めての性に関する調査報告「キンゼイ・レポート」で名高い、アルフレッド・C・キンゼイ博士の伝記映画だ。(Kinseyは「キンゼー」と表記することが多いようだが、ここでは映画のタイトルに合わせておく。)キンゼイ博士を演じているのはリーアム・ニーソン。その妻を演じるのはローラ・リニー。監督・脚本は『ゴッド・アンド・モンスター』のビル・コンドンだ。『ゴッド・アンド・モンスター』も伝記映画で同性愛の問題が描かれていたが、今度の映画の方が監督の問題意識はよりダイレクトに描かれていると思う。

 キンゼイ博士が行ったのは、それまで封印されていた性の問題を白日の下にさらすことだった。彼はパンドラの箱を開けて、アメリカ社会が暗黙のうちにタブーとしていた事柄をすべてさらけ出してしまった。それまでの社会では性に関する道徳的なタブーを正当化するために、「それは異常である」「それは犯罪である」「それは病気である」というレッテルを貼って封じ込めた。しかしキンゼイ博士の調査は、そんなタブーが実際の世界ではまったく意味を持たないことを証明してしまった。性行動に関して「正常」と「異常」の明確な境界線など存在しないことが、科学的に証明されてしまったのだ!

 面談調査のシミュレーションで、博士本人が自分の過去を語るという導入部が上手い。このくだりで、博士の生い立ち、学問的な関心事、性に対する考え方、夫婦関係、几帳面で凝り性な性格などがすべてわかってしまう。博士が地味な昆虫の研究から、一転して人間の性に関する研究調査にのめり込んでいく過程の処理も巧み。このあたりはオスカー受賞歴もある脚本家の面目躍如ではないだろうか。

 キンゼイ博士の研究業績を高く評価しながらも、彼を聖人君子にしていないところがいい。博士は偏執狂的な学問オタクで、人間の感情の機微にはまったく無頓着なところがある。それが研究室内で不穏な波風を立てることもあるし、彼の研究報告が社会的な逆風を受ける原因にもなっているのだ。女性の性についての研究が社会的なバッシングを受けたとき、その理由が博士にはまったくわからない。世界有数のセックスの権威は、セックスが持つ社会的な意味についてまったく無知なのだ。(もちろんこれは映画の中での話であって、実際のキンゼイ博士がどうだったのかは知らないが……。)

 映画には同性愛者に対する優しい眼差しが垣間見えるが、それこそ『ゴッド・アンド・モンスター』のビル・コンドン監督らしさだと思う。少年時代の体験を語る男に、「いずれ社会が同性愛者を受け入れるようになる」と語りかけるキンゼイ。このあたりから、映画は「過去の偉人伝」であることをやめて、同性愛者と社会という現代にも通じるテーマを奏ではじめる。最後の女性インタビューは、作品のサブテーマが「同性愛」であることの証明だ。

(原題:Kinsey)

8月公開予定 シネマスクエアとうきゅう、シネスイッチ銀座
配給:松竹 宣伝:メゾン
2004年|1時間58分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.kinsey.jp/
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