ヒトラー

最後の12日間

2005/06/02 GAGA試写室
ベルリン陥落直前のヒトラーと側近たちの姿を再現する。
ブルーノ・ガンツがヒトラーを熱演。by K. Hattori

 人類の歴史上、最大の悪人は誰か? その答えとしてアドルフ・ヒトラーの名をあげる人は多いだろう。ナチスドイツを率いてヨーロッパ全土を戦火の渦に巻き込み、敵と味方の軍人と民間人を含めて数千万人を殺し、戦争とは別の狂信的な優生思想から、ユダヤ人、ジプシー、ポーランド人、精神病患者、障害児など数百万人を殺した独裁者だ。ヒトラーの第三帝国は一時ヨーロッパの大半をその手中に収めたかに見えたが、連合軍の猛反撃の前に1945年5月8日降伏。だがヒトラー本人は、その直前の4月30日に地下壕の中で自殺している。

 この映画はヒトラーたちナチスの幹部たちが地下壕の中で過ごした最後の日々を、彼らと共に最後までベルリンに残った人々の視点から描く歴史ドラマだ。歴史学者ヨアヒム・フェストの「ダウンフォール:ヒトラーの地下要塞における第三帝国最後の日々」(邦訳「ヒトラー 最後の12日間」)と、ヒトラーの秘書だった女性の回顧録「最後の時間まで:ヒトラー最後の秘書」(邦訳「私はヒトラーの秘書だった」)が原作。ヒトラーとナチス幹部がどう終戦を迎えるかという群衆劇は歴史家の視点だが、そこにナチスとは直接関係のなかった若い女性秘書の視点を紛れ込ませたのがいい。観客は彼女の視点を借りることで、ナチスドイツの終焉を見つめ続ける名もない傍観者になれるのだ。

 物語は若い秘書トラウドゥル・ユンゲが、ヒトラーの個人秘書に採用される場面から始まる。それは1942年11月のことだった。じつはヒトラーの挫折は、この年の12月にソ連のレニングラード攻略に失敗したところから始まる。つまりユンゲが秘書になった42年11月は、ヒトラーにとってまだ最後の絶頂期だった。しかし場面が変わると、そこは45年4月20日のベルリンだ。レニングラードでドイツ軍をくい止めたソ連軍は、その後じりじりと反撃の軍を進めて今はベルリン中心部にまで迫っている。ベルリン陥落は誰の目にも明らかだ。しかしヒトラーは自分の負けを認めない……。

 映画はこのどん詰まりの状況において、なおも自らの立身出世と栄誉を願う人々の姿を描いている。何と滑稽なことか。ナチス幹部の誰もが数日以内には戦争が終わることを知っているくせに、彼らはなおも組織の中で他人を出し抜き、出世する策を練っているのだ。彼らにとって最大級の侮辱の言葉は「出世主義者!」である。ことここに及んで、出世もへったくれもあるまいに。祖国防衛に志願した少年兵たちに、ヒトラー自らが勲章を授与する。ヒトラーが死んだあとも、兵士たちには勲章が配られる。自警団は街の中で脱走兵や共産主義者を駆り立てる。それにはもう、何も意味はないというのに。

 ここには戦争という巨大な暴力装置の狂気がリアルに描かれている。戦争は狂気だ。まともな人間は誰もいなくなってしまう。戦争は人の狂気が生み出し、戦争は人を狂わせる。

(原題:Der Untergang)

夏公開予定 シネマライズ
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
宣伝:ギャガ宣伝イーストグループ
2004年|2時間35分|ドイツ|カラー|ビスタサイズ|ドルビーSR、ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.hitler-movie.jp/
DVD SpecialShop DiscStation 7dream_88_31 TSUTAYA online
ホームページ
ホームページへ