皇帝ペンギン

2005/06/01 GAGA試写室
極寒の南極で子育てをするコウテイペンギンの記録。
ペンギンを擬人化した感動的内容。by K. Hattori

 映画の冒頭で画面に写るのは、南極の海に浮かぶ巨大な氷山の空撮ショットだ。これがまず、モーレツにビューティフル! 氷山で水面に浮かんで見えるのは全体の1割だとか言われているけれど、この空撮はその普段は隠されている水面下の氷が、うっすらと水面から透けて見えるのがキレイ。この美しい氷山の映像に、キラリと輝くようにタイトル文字が被さっていく美的センスに惚れ惚れするうちに、幾多のカットを積み重ねながらカメラは少しずつ高度を下げて行く。こうして映画は観客たちを、コウテイペンギンたちが暮らす極寒の世界へと連れて行くのだ。

 フランスで大ヒットしたという動物ドキュメンタリー映画で、取材対象になっているのはペンギンの仲間の中で最大の大きさを誇るコウテイペンギン。動物ドキュメンタリーの多くは観客をその動物の「観察者」や「傍観者」の立場にするのだ常套手段だが、この映画は観客をコウテイペンギンそのものと一体化させてしまう。観客たちはロマーヌ・ボーランジェとシャルル・ベルリングが声を担当するペンギンのカップルに、いつしか自分自身の人生を重ね合わせてしまうのだ。

 原題はフランス語でよくわからないのだが、「皇帝の行進」という意味だろうか。英語のタイトルは『The Emperor's Journey』になっている。映画のテーマになっているのは、コウテイペンギンたちが繁殖期に繰り返す、隊列を組んでの長い長い行進だ。夏の間は海辺で暮らし、たっぷりと身体に栄養を蓄えたペンギンたちは、冬の繁殖期が近づくと内陸部の繁殖用コロニーに向けて移動する。オスもメスも連れ立って20日間、長い行列を作って氷原を歩いていくのだ。その姿はまるで、砂漠の中を歩む巡礼者のように見える。

 やがてコロニーでカップルを作ったペンギンたちは卵を産むと、その卵をオスに預け、メスは生まれるヒナに与える餌を取るため海に戻る。極地の厳しい冬の中で、オスは帰ってくるメスを待ちながら卵を温める。メスが帰って来る直前にヒナが生まれ、帰ってきたメスと交代で今度はオスが海に戻るのだ。最初の行進からここまで、オスの絶食は4ヶ月に及び、この最後の行進で多くのオスたちが衰弱死するという。(そのためコウテイペンギンのコロニーは常にオスの方が少ない。)

 ペンギンたちの生活を撮影した美しくも厳しい映像の数々。そこから伝わってくるのは、そこにある「命の存在」そのものだ。マイナス数十度にまで冷え込む極地の気候は、命の尊さとか、命の尊厳とか、そういった観念的な言葉をすべて吹き飛ばしてしまう。ただ生きて、命を次に繋いで行くことのためだけに、ペンギンは長い行進と、絶食と、寒さとに耐え抜く。そこでは命と命がつながって、互いの小さな命を支え合っている。人間が忘れがちな「命の不思議」が、そこに研ぎ澄まされた状態で存在しているのを観ることができる。

(原題:La Marche de l'empereur)

7月16日公開予定 恵比寿ガーデンシネマ
7月23日公開予定 全国拡大ロードショー
配給:ギャガGシネマ 協力:アーティストフィルム
2005年|1時間26分|フランス|カラー|ビスタサイズ|DOLBY DIGITAL、DOLBY SR
関連ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/emperor-penguin/
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