フェーンチャン

ぼくの恋人

2005/3/24 サンプルビデオ
80年代のタイを舞台にした少年と少女の初恋の物語。
少年期特有の心理を巧みに描写。by K. Hattori

 バンコクで働いているジアップは友人の結婚式に向かう途中、母親からの電話で幼なじみのノイナーが結婚するという知らせを受け取った。子供の頃に別れて以来ずっと会うことがなかったノイナー。同じ町内の隣同士で育った彼女は、ジアップにとって初恋の相手だった……。男性が初めて「女の子」を意識する少年時代を描き、タイで大ヒットしたというキッズ・ムービー。物語を現代から始め、過去の少年時代のエピソードに戻ってから、最後にまた現代のエピソードで締めくくる回想形式をとっている。主に描かれているのは、1980年代のタイで暮らす少年少女たちの姿だ。

 この映画を観て、おそらくタイの観客たちは「うわ〜、懐かしい!」と思うのだろう。映画のあちこちに(おそらくは)当時のタイの流行歌や、一世を風靡したテレビドラマなどを挿入して、この映画を(たぶん)タイの人なら誰でもわかる1980年代のどこか特定の年へと定着させている。日本人である僕にはそうした時代背景はまったくわからないが、それでもこの映画を観ると懐かしくてしょうがないのだ。女の子のゴム飛びや、ホームランバー(にしかみえないアイスクリーム)、少女漫画風の紙人形、ドラえもんのTシャツ、香港(あるいは台湾?)のカンフー映画など、僕が子供時代に親しんだ物事があれこれ登場する。日本とタイは、思っているよりずっと近いという驚き!

 しかしそんな風俗描写以上に、この映画で細かく描写されている少年の気持ちに、僕はぐいぐい引き込まれてしまう。大人たちは「子供」とひとくくりにするけれど、男の子が男の子同士で徒党を組んで遊ぶことが、楽しくて仕方がなくなる前思春期の遊び盛り。「ギャング・エイジ」とも呼ばれるこの年頃の男の子の心理を、これほど細やかに描いた映画はあまり観ることがない。大人の入口(思春期)にはまだ距離があるけれど、男の子や女の子という性差を十分に意識し始めるほんの短いひと時を、この映画は見事に描ききっているのだ。映画は主人公ジアップがギャング・エイジに差し掛かる瞬間を、大通りを自転車で向こう側に渡るという行動で象徴的に描く。そして彼が思春期に入る頃、自転車はオートバイに変わるのだ。

 空き地にたむろする少年グループの描写も秀逸。特にグループのリーダー格、ジャックのキャラクターがいい。体の大きい乱暴者にしか見えなかった彼が、少しずつジアップの親友へと変化していく描写のうまさ。ノイナーが可愛いという以前に、僕はこういう男の子同士の関わりに引き込まれてしまう。

 大学の映画学科で共に学んだ6人の監督が、共同で監督したという珍しい作品。奇をてらって作家性や個性を主張するのではなく、誰もが共感できる普遍的な少年期の物語になっているのは、こんな映画の作り方に原因があるのかもしれない。タイではリピーターが続出したというが、それもうなずける作品だ。

(原題:Fan chan)

3月19日公開 シャンテシネ
配給:ワイズポリシー
2003年|1時間51分|タイ|カラー|1:1.66ヨーロッパビスタ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.excite.co.jp/cinema/special/fanchan/
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