フレンチなしあわせのみつけ方

2005/2/10 メディアボックス試写室
イヴァン・アタルが監督主演したリアルな夫婦の実像ドラマ。
共演にはもちろんシャルロット・ゲンズブール。by K. Hattori

 イヴァン・アタルが妻シャルロット・ゲンズブールと作った監督主演作。『ぼくの妻はシャルロット・ゲンズブール』に続いて、この映画でもふたりは夫婦役だ。ただし絵に描いたような模範的夫婦というわけではなく、妻は他の男との情事を妄想し、夫は妻に隠れて浮気をしているという、ちょっと危うい夫婦関係だ。

 映画は2組の夫婦とひとりの独身男を中心にして進行していく。アタルとゲンズブールが演じるヴァンサンとガブリエルは、夫が自動車販売店のセールスマン、妻が不動産会社勤務という夫婦。小学生のジョセフという一人息子がいて、夫婦関係はきわめて良好に見える。だがそれはうわべだけのこと。ヴァンサンには秘密の愛人がいて、そちらともまるで夫婦同然という二重生活を送っている。もうひと組の夫婦は、アラン・シャバが演じるヴァンサンの友人ジョルジュと妻ナタリー。このふたりは顔をあわせるたびに激しい夫婦喧嘩をしていて、まるで殺し合いにまで発展しそうな雰囲気。(この激しい怒りと憎しみに満ちた夫婦と対比するように、隣の部屋に住む仲のいいインド人夫婦が登場する。これがなかなか効果的。)ヴァンサンの同僚フレッドは、いつでも複数の女性と同時に付き合っているモテモテの中年独身貴族。

 物語はヴァンサンの愛人問題による夫婦の危機、ジョルジュとナタリー夫妻の和解、フレッドの結婚というそれぞれの物語をゆるやかに束ねた形で進行していくが、全体をがっちりまとめる大きなドラマというものはない。この映画の面白さはまず第一に登場人物たちの明確なキャラクターであり、第二に断片的に挿入されている個々のエピソードの面白さ、そして「ええっ!」と驚く豪華ゲストに代表される作り手のお遊び感覚にある。夫婦のじゃれあいが食材や調味料を使ったゲームめいた家庭内戦争に発展するとか(あれは後片付けが大変そうだな〜)、平気な顔をして女たちとのデート時間を調節していくフレッドとか(うらやましい以前にそのタフさに感心してしまうぞ)、隣室でポーカーをしながらも妻との口喧嘩が止まらないジョルジュとか、レストランで互いにそれと知らぬまま妻と愛人が同席しているスリルとか、CDショップに現れたハリウッドスターとか!

 それにしても、既婚男性の結婚観や独身貴族の結婚願望をこれほど生々しくリアルに描いた映画はなかなかないと思う。夫婦の倦怠や危機を描いた映画は山のようにあっても、それらはたいてい何らかの事件を通して解消されるなり乗り越えられていくのが常だ。ところがこの映画の中では最後までたいした事件が起きず、登場人物たちはそれぞれの問題を抱えたまま終わる。「よい結婚はあるが楽しい結婚はない」と言ったのはラ・ロシュフコーだが、この映画で描かれているのはその良質なサンプルだ。「よい結婚」とは夫婦の敵意と相互不信にたっぷりと退屈さをまぶして出来上がるらしい。

(原題:Ils se marierent et eurent beaucoup d'enfants)

4月公開予定 渋谷シネ・アミューズ
配給:ギャガ・コミュニケーションズ、アニー・プラネット 宣伝:アニー・プラネット
2004年|1時間44分|フランス|カラー|シネスコ|ドルビーSR、SRD、DTS
関連ホームページ:http://www.annieplanet.co.jp/
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