YUMENO

2004/12/10 シネカノン試写室
両親を殺した青年に連れ回される女子高生が見たものは……。
実在の事件がモデルになっているそうだ。by K. Hattori

 北海道のとある町で、一家の主婦とその夫が押し入った若い男に惨殺されるという事件が起きた。犯人の男はそのまま部屋に残り、間もなく帰宅した高校生の娘を連れて逃走する……。実際に起きた事件をモデルにしたという鎌田義孝監督作。主演は菜葉菜と小林且弥。途中でふたりに合流する小学生を金井史更。じつはこの映画はこの主演クラスがもっとも無名で、脇役の方が豪華なキャスティングなのだ。女子高生の愛人役で、「間違いない!」で知られるお笑い芸人・長井秀和が出演しているのも見もの。他の出演者も物語にとって重要な人物なのだが、ほとんどの人が短いシーンにからむだけ。これはある意味仕方がない。映画は成り行きで殺人犯になった青年と、彼に拉致された女子高生と小学生の行くあてのない旅を綴るロードムービーなのだから。

 映画は比較的序盤から青年による凄惨な殺人の現場を見せながら、青年がこの行動に至った理由、青年と出くわし連れ回されることになる少女や、途中から旅の同行者となる少年の事情などを語っていく。時間軸や各人各様のエピソードをバラバラにほぐして仕立て直した、なかなか凝った構成になっている。しかし面白いのはこの構成だけで、話の方にはどうしても馴染めない。そもそもこの映画では登場人物の全員が、観客の感情移入を拒むかのようにツッパリ続けている。

 こうした映画では寓意性や暗喩というのが物語のテーマを浮かび上がらせる大きな役目を担うものだが、殺人青年の背中にあるワタリガラスの刺青はともかくとして、少女の青いコンタクトレンズが何を象徴しているのかわかりにくい。逆にこうした象徴性なしに、学校の文集に「普通の大人になりたい」と書いた小学生のキャラクターは比較的面白く仕上がっているのだから皮肉なものだ。

 そもそも殺人というのは異様な行動だから、そこに明確な目的や意思がなくても構わない。しかし自分の両親を殺した殺人犯に、女子高生がのこのこ付いていくという心理は理解不能だ。こうした行動は他人が合理的に考えた時に理解不能でも、その場のその状況の中では成立してしまう勢いやノリがあるのだと思う。それを映画の中で再現してくれれば、観客は「ああ、バカなことを」とは思っても、「なんでこんなことを」という疑問は持たないだろう。脚本はこのシーンを「なんで逃げなかったんだよ!」「私にもわかんないよ〜」という台詞で済ませているが、場面演出としてこれにどれだけ上積みできるかが演出家としての腕なのではないだろうか。

 この映画が描く旅には終わりがない。少女の家出は挫折し、殺人犯は倒れ、少年は母親に再会した。しかし旅は終わらない。彼らは一体どこに行こうとしているのか。「ここじゃないどこかで、今じゃない自分になる」というのは青春期の普遍的なテーマだと思うが、この台詞を引き出すためにこの映画があるとしたら、いささか大げさすぎる。

1月29日公開予定 渋谷シネパレス(レイト)
配給:アルゴピクチャーズ
2004年|1時間33分|日本|カラー|ビスタ
関連ホームページ:http://www.argopictures.jp/lineup/yumeno.html
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