CHARON

カロン

2004/12/02 TCC試写室
小説家の妻とヤクザの愛人という二重生活を送る女の謎。
ミステリーから始まり、最後は大感動! by K. Hattori

 小説家・勝木大の妻・秀子は、和服姿で家事を完璧にこなし、仕事を終えた夫が家の外で羽目を外すのも大目に見る貞淑な人妻。その彼女は夫が留守の間、出張売春クラブの元締めである若いヤクザ・示現道男の愛人となり、同時に彼のたばねる売春クラブに所属する高級娼婦・カロンとして客を取っている。夫の勝木はそんな妻の別の顔を知らない。そしてヤクザの道男も、自分に由都と名乗っている彼女の本当の素性を知らない。ひとりの女の完璧な二重生活だ……。

 高橋玄監督の新作は、謎めいた行動で男たちを翻弄する、ひとりの女についてのミステリーとして始まる。小説家の妻・秀子、高級娼婦・カロン、道男の愛人・由都、書店で働く女・川杉。まったく同じ顔をしたこの女たちは、はたして同一人物なのだろうか? ひょっとして同じ顔をした他人なのか。もしくは多重人格とか……。何か映画ならではの仕掛けがあるに違いないと身構える観客をはぐらかすかのように、映画はこの謎の女の生活を1日べったりと追いかけてみせる。小説家の家を出た秀子は、やがてカロンへと変身する。でもなぜ彼女がそんなことをしているのだ? 疑問がより大きく深くなったとき、彼女は物語の中から忽然と姿を消してしまうのだ。

 勝木と道男はふたり連れだって、消えたカロンの行方を捜し始める。ここからが映画の第2幕となる。この男たちは、彼女を探さずにいられないのか。彼女の秘密を知ることが、彼らにとってどんな益になるというのか。映画後半のロードムービーは、男たちがカロンを探す旅であると同時に、彼らが自分たちの人生の意味を探す旅でもある。人生は必ずしも自分の思う通りには運ばない。自分の今いる場所は、必ずしも自分の望んでいる場所じゃない。世間の規格からはずれた人間。世間の規格に合わせようにも合わせられない、規格の外側にいる孤独な男たちは、カロンという女性の姿を追うことで自分自身が何者なのかを知ろうとしているかに見える。キーワードは「カロン」という星の名前。カロンは冥王星の衛星で、存在することは知られているが、誰も見たことがないという小さな星だ。太陽から遠く離れて、誰からも見向きもされない小さな小さな凍り付いた星がある……。

 男たちは旅の終わりに、カロンと名乗った女の秘密にたどり着く。そこにあるのは、他人がうかがい知れないほどの大きな悲劇と絶望。だが物語はここから、思いがけずハッピーエンドに向かうのだ。状況としてはまるでハッピーではない状態が、まがりなりにもハッピーエンドとして成立するのは、これが登場人物たちの「心の旅」を描いた映画だからだろう。勝木、道男、カロンたちは、最後の最後の一瞬の邂逅の中で長い長い旅をようやく終えたのだ。勝木は「おばあちゃんになった彼女を見てみたかった」とつぶやく。旅を終えた彼らはこれから先、それぞれの人生を別々に歩んでいくのだろう。

2月19日公開予定 テアトル池袋(レイト)
配給:グランカフェ・ピクチャーズ
2004年|1時間29分|日本|カラー|ヨーロピアン・ヴィスタ・サイズ|ステレオ
関連ホームページ:http://www.movie-charon.com/
ホームページ
ホームページへ