悪魔の発明

2004/11/16 映画美学校第1試写室
ジュール・ヴェルヌの冒険小説をカレル・ゼマンが映画化。
銅版画風の絵作りがユニークだ。by K. Hattori

 19世紀フランスの小説家ジュール・ヴェルヌの空想科学小説「悪魔の発明」を、チェコスロヴァキアのアニメ作家カレル・ゼマンが映画化した長編映画。これを単純に「アニメーション映画」と言うのは間違いだろう。むしろアニメも含めた「特撮映画」と呼ぶのが正しいように思う。映画全体は銅版画を再現したようなモノクロ世界。細い線で描写された世界を、俳優が演じた実写の人間が動き回る。時々アニメーションも入るのだが、むしろセットの中での芝居が圧倒的に多いのではないだろうか。実写、アニメ、模型撮影などが、渾然一体となってひとつの世界を作り上げている。

 ヴェルヌが「悪魔の発明」を書いたのは1896年。じつはヴェルヌの小説の原題を直訳すると「国旗に向かって」になるそうだが、ゼマンの映画の邦題があまりにもピッタリだったので、その後はヴェルヌの小説のタイトルも「悪魔の発明」で定着したのだという。

 この小説は核兵器開発を予見した作品として知られているが、このゼマンの映画が作られた時代は、米ソが盛んに核開発競争を繰り返していた頃でもある。この映画に登場する「ロック式爆弾」は、まさに核兵器を思わせる「悪魔の発明」として当時の人々の目に映っただろう。だが核開発競争や世界核戦争の恐怖は、東西冷戦の崩壊で一昔前の出来事になってしまった。すると今度は、海賊たちが最新兵器や超協力爆弾を手に入れるという「悪魔の発明」の着想が、大量破壊兵器と国際テロリズムの時代に生きる我々にとっても今日的なテーマになるのだ。「悪魔の発明」はヴェルヌの小説の中でさほど人気のあるものではないが(何しろ邦訳もすべて絶版だ)、こうして見ると二重三重に未来を予見していたなぁ……と感心してしまう。

 映画にはふたりの科学者が登場する。ひとりは超強力爆弾の発明者であるロック博士。もうひとりはその助手のハルト。ロック博士は自分の発明を完成させるために、海賊団を率いるダルティガス伯爵のバックアップを受けて発明に没頭する。博士は自分の生み出した発明が、世界をどう変えるかにはあまり興味がない。今目の前にある研究だけが、彼の目的になっている。しかしハルトは発明が海賊の手に落ちることを知って、研究に協力することを拒む。

 ロック博士は現実が見えない、非常に愚かな男に思えるかもしれない。しかいしじつは現在科学技術の最先端を歩んでいる人たちというのは、多かれ少なかれロック博士と同じなのだ。例えば最先端の生殖医療の現場では、男女生みわけ、先天的な異常の排除などが当然のように行われているし、デザイナーズベビーやクローン人間の誕生も時間の問題だろう。「悪魔の発明」の研究は兵器開発とはまったく別のところで、今もなお続けられているのかもしれない。ヴェルヌの「悪魔の発明」とゼマンの映画は、今もなお人々に警鐘を鳴らす科学の寓話と成り得ている。

(原題:Vynalez Zkazy)

クリスマス公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:日本スカイウェイN.S.W.、ケイブルホーグ
1958年|1時間22分|チェコスロヴァキア|モノクロ|スタンダード
関連ホームページ:http://www.cablehogue.co.jp/karel_zeman/
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