スウィングガールズ

2004/11/10 シャンテ・シネ3
女子高生ビッグバンドの活躍を描く青春音楽映画。
最後の演奏シーンには大興奮。by K. Hattori

 『ウォーターボーイズ』の矢口史靖監督最新作は、東北の田舎町で女子高生たちがビッグバンドジャズの演奏にのめり込んでいくという青春音楽映画。劇中では「A列車で行こう」を始めとするジャズの名曲が次々演奏されるが、これは実際に映画の出演者たちが演奏しているのだというから驚き。出演している女の子たちを僕はほとんど知らないのだが、そんなこと関係なしの面白さ。『ウォーターボーイズ』の出演者がその後芸能界でメジャーになっていったように、この映画の出演者たちもメジャーになってほしい!

 矢口史靖監督の映画は今どき珍しく、「作り物としての映画の面白さ」を観客に提供してくれる。リアリティを超越した「映画の嘘」を、観客も「嘘」と知りつつ楽しめるのが矢口ワールドなのだ。つまらない映画をけなす際、「リアルじゃない」「リアリティがない」という言葉がしばしば発せられるし、僕自身もそうやって映画を批判することがある。しかしそれは「嘘はいけない」「本物通りでなければならない」という意味ではない。嘘でもいいのだ。作り事でもいい。その嘘や作り事が映画の面白さにきちんと貢献している時、「嘘」は「映画の約束事」と名を変えて、観客をぐいぐいと物語の中に引っ張り込む強烈な手助けをする。

 この映画では「そんな馬鹿な!」というシーンやエピソードが次々に登場する。それを個々に取り上げていけば、どれもリアリティなどない。野球の応援で全員が食中毒。補習をさぼる口実に楽器演奏の真似事。土手を自転車が一回転。中年の数学教師が防音設備付きの部屋でジャズ三昧。信号機の音楽で裏打ちリズムのスウィング開眼。どれも「あり得ないだろう」と思われるものばかりだ。しかしこうした無邪気な嘘を小出しにばらまきつつ、素人集団がごく短期間に独学でジャズバンドを成立させてしまうという大きな嘘を組み上げていくのはうまい。これはマギー審司の大きな耳に客があきれている内に、何やらすごい手品が行われてしまうのと同じテクニックだ。

 映画の見どころはスウィングガールズの演奏シーン。この映画の数々の小さな「嘘」は、この大嘘を成立させるためにあるようなものだ。スーパーの駐車場で演奏しているメンバーに、他の仲間たちが一気に加わってくるシーンの気持ちよさ。これは誰が観ても完全な嘘っぱちなのだが、その嘘を平気で許せてしまう名場面になっている。そして何よりも圧巻なのはラストの演奏会シーン。チューニングでハラハラさせておいて、演奏が始まるや一気呵成に押しまくる演出。メンバーの元彼たちが臨時の照明技師を買って出ると、スポットライトに照らされたドラムがジーン・クルーパーばりの重量感でリズムを叩き始める。当然ここで始まる曲は「シング・シング・シング」なのだ。もう最高!

 映画はこの演奏シーンで終わる。余計な後日談やエピローグは一切なし。この潔さがまた素晴らしい。

9月11日公開 シャンテ・シネほか・全国東宝洋画系
配給:東宝
2004年|1時間45分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.swinggirls.jp/
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