CEO[最高経営責任者]

2004/11/04 シネカノン試写室
実在する中国の家電メーカー、ハイアールの急成長物語。
中国とビジネスする人は必見ですぞ。by K. Hattori

 中国・青島にあるつぶれかけた冷蔵庫工場の経営者になった男が、決死の覚悟で海外の技術を導入し、思い切った手段で従業員の意識を改革。大規模な設備投資による資金不足、海外企業からの乗っ取り工作といった危機を乗り越えて、ついには中国初の世界的家電メーカーを作り上げるまでを描いた実録ビジネス映画。モデルになったのは中国の家電メーカーハイアール(海爾集団)と、そのCEO(最高経営責任者)の張瑞敏(チャン・ルエミン)。映画は彼がドイツから最新の生産ラインを導入するエピソードに始まり、会社が世界トップクラスの家電メーカーに成長した現在までを描いている。

 監督は『古井戸』や『變臉(へんめん)/この櫂に手をそえて』の呉天明(ウー・ティエンミン)。ストーリーは主人公の成功物語であり、撮影にはハイアール社が全面的に協力。映画の印象はほとんど企業PR映画なのだが、伝わってくるのは企業のPR臭というより、映画の作り手が持つ嘘偽りのない愛国心だろう。安い原価で粗悪な商品を大量生産する「中国製」というイメージを、高品質な製品を次々市場に投入することで見事にくつがえし、能力のある人材を育て、その人材が海外に流出することなく力を振るうハイアール社。そこにこの監督は、これからの中国のあるべき姿を夢見ている。映画の最後が、中国人の誇りを高らかに歌い上げた曲で締めくくられているのも当然だ。

 映画を観る前はVHS開発物語『陽はまた昇る』の中国版のような印象を持っていたのだが、この映画はそれ以前の次元だと思った。これは映画の完成度のことを言っているのではない。ここに描かれているのは、日本で言えば松下電器の松下幸之助伝、ホンダの本田宗一郎伝、あるいはソニー誕生神話といったものなのだ。高度経済成長時代に日本人を勇気づけた「伝説の創業者たち」の中国版を、今の中国人は欲している。そこに現れたのがハイアールの張瑞敏であり、この映画に描かれた数々のエピソードなのだ。

 映画はハイアールの成功と危機にまつわる複数のエピソードが次々に現れる串団子型の構成で、全体を通す大きなドラマというものが欠けている。これが「プロジェクトX」ならば、主人公の家庭生活や周囲との人間関係を取材して、主人公の人間像をもっと深く掘り下げるだろう。しかしこの映画にはそれがない。主人公はどんな決断もひとりで下し、しかも決して失敗しない実業界のスーパーマンとして描くのだ。語り口は一本調子で、映画としてはまとまりが悪い。この映画を観ればハイアールという会社のことも、現代中国の底力もわかるだろう。退屈はしない。しかし映画としての面白さは薄いのだ。

 だがこれはそれで構わないのだという、製作者側の声が聞こえてきそうな映画でもある。これはいよいよ世界規模の経済戦争に本格的に乗り込んでいく中国人のために、中国人自身が作った戦意高揚映画なのだ。

(原題:主席執行官)

12月中旬公開予定 ポレポレ東中野
配給:アップリンク、フォーカスピクチャーズ
2002年|1時間56分|中国|カラー|1.1.85
関連ホームページ:http://www.uplink.co.jp/
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