アイ,ロボット

2004/10/20 錦糸町シネマ8楽天地(シネマ1)
アシモフの原作からロボット三原則だけ借りてきたSFアクション。
内容と映画のカラーがちぐはぐなのかも。by K. Hattori

 『クロウ/飛翔伝説』や『ダークシティ』など独特の映像センスで一部の映画ファンを魅了してきたアレックス・プロヤス監督が、ウィル・スミスというハリウッドの大スターと組んで作ったSF大作。タイトルはSF界の巨匠アイザック・アシモフのロボットテーマ短編集「私はロボット」から取られ、原作者としてアシモフの名もクレジットもされている。(ただしアシモフの特定の小説を原作にしているわけではないらしい。)映画の大きなテーマになっているのは、アシモフが提唱した「ロボット三原則」だ。

 世界最大のロボットメーカーUSロボティクス社で、研究者のアルフレッド・ラニング博士が投身自殺した。この死に疑問を持つデル・スプーナー刑事が博士の部屋を調べていたところ、身を潜めていた1体のロボットが逃走する。この最新型ロボットはスプーナーに銃を向け、制止命令も無視して逃走する。完全に「ロボット三原則」を無視した行動だ。スプーナーは研究所の女性研究員カルヴィン博士と協力して、逃げ出したロボットを追う。やがてふたりは、逃げたロボットとロボット社会全体にまつわる恐ろしい秘密を知ることになるのだが……。

 映画に盛り込まれているテーマはかなり硬派なものだ。ロボット三原則の矛盾。人間とロボットの違い。ロボットは自意識や感情を持てるのか。人間の弱さや限界をロボットが補うことで、どんな社会が到来するのか。こうしたテーマを個々に掘り下げていくことで、哲学や倫理学の大きな命題にたどり着くこともあるだろう。あるいはこの映画を企画した人は、かつてSF小説がそうであったように、SFという形式を借りて人間が抱える哲学的な命題に挑みたいという野心があったのかもしれない。ここで提示されている問題は、どれも非常に輪郭がはっきりして生々しい。

 だがそれにあまり固執していては、映画はハリウッド流のアクションドラマとして成立しない。ここはどちらを優先するべきかという商業上の価値判断になるのだが、ハリウッド映画はこうした時にまず間違いなくアクションドラマを優先する。その結果この映画は、SF風の道具立てを使ったミステリードラマとしても中途半端、アクション映画としても中途半端、哲学的なテーマの扱いも中途半端で、二兎も三兎も追った挙げ句にひとつも物にできなかった生ぬるい映画になってしまった。

 個々のアクションシーンはそれなりに迫力があるのだが、「主人公は絶対に傷つかないし死なない」という安心感があって緊迫感に欠ける。映画にもう少しダークな雰囲気がほしかった。そもそもこの映画は、プロヤス監督の映画にしちゃあ画面が白っぽすぎやしませんかね。タイアップ企業に対する配慮ばかりが目に付くと、映画全体が安っぽい印象になってしまう。あまりやるとうっとうしいだろうけれど、これはもう少しテーマを掘り下げてもいい映画だと思う。

(原題:I, Robot)

9月18日公開 日劇1、日比谷映画ほか全国東宝洋画系系
配給:20世紀フォックス
2004年|1時間55分|アメリカ|カラー|2.35:1|DTS、ドルビーデジタル、SDDS
関連ホームページ:http://www.foxjapan.com/movies/irobot/
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