トルク

2004/10/04 ワーナー試写室
CG技術が可能にした壮絶なバイクチェイス映画だが……。
物語があまりにもつまらない。by K. Hattori

 CMやミュージックビデオの演出家として活躍してきたジョセフ・カーンの、劇場映画監督デビュー作。とにかく最初から最後まで映像センスだけを前面に押し出し、1時間半弱をスピーディにすっ飛ばそうというコンセプトは明快。しかしたとえ1時間半とはいえ、筋立てがこうも単純では観ていて退屈してしまう。売り物のバイクチェイスにしたところで、『マトリックス』で使った技術の二番煎じのようで新鮮味に欠ける。オンロードで時速200キロを超えるバイクを、オフロードでもたもた走らせるのも気になった。ストーリーの上ではアクセントになるのだが、それは非常時に1度だけでいいだろう。

 麻薬密売容疑でFBIに追われ、姿を消していたフォードが町に戻ってきた。向かった先は恋人ジェインのパーツショップ。この噂を聞きつけて現れたバイク軍団のボス、ヘンリーは、フォードに「俺のバイクを返せ」と言い残して去っていく。じつはヘンリーが預けたバイクには麻薬が隠されており、フォードはそれを知ってバイクを隠しておいたのだ。ヘンリーはフォードをさらなる窮地に追い込み自分に協力させるため、彼と対立関係にあるバイカーグループのリーダー、トレイの弟を殺してその罪をフォードになすりつける。「俺のところに来れば警察やトレイから守ってやるよ」というヘンリーの言葉にすべてを悟ったフォードは、一発逆転を賭けて仲間たちを反撃に出るのだった……。

 無実の罪を背負って町から姿を消していた男が、世界を放浪した末に恋人のいる町に戻ってくるという導入部がそもそも古くさい。敵対するバイクグループがあって、一方は麻薬と暴力で悪どく稼ごうとする白人チョッパー軍団、もう一方は麻薬を毛嫌いする清潔なリーダーに率いられた黒人のレーサー軍団。主人公のフォードはレーサータイプのバイクに乗っているので、両グループが反目すれば最終的に同系統のレーサー軍団に合流することになる。このあたりの流れも見え見えだ。チョッパーの燃料タンクに麻薬を隠すなんて、『イージー・ライダー』の時代から少しも進化していないしな……。

 登場するキャラクターは主人公を含めてどれも生活実感に乏しい。これが映画最大の欠点だろう。おそらく映画のカラーとしては『ワイルド・スピード』のバイク版を狙ったのだろうが、『ワイルド・スピード』には「車とレースが大好きだけど、俺たちそれで貧乏になっちゃったぜ!」という生活実感があった。でも『トルク』の主人公たちに、そうした生活臭はない。ファッショナブルなレーシングスーツに身を包み、高価なバイクにまたがった彼らは、まるっきりのお人形さんなのだ。

 話がさほど面白くない分、映像でもっと遊び回ってくれてもよかったと思うが、走行中の列車を使ったバイクチェイスが多少面白かったぐらい。モンスターマシンY2Kが街を走るクライマックスは、ゲームみたいで興ざめだった。

(原題:Torque)

10月16日公開予定 東劇
配給:ワーナー・ブラザース
2004年|1時間24分|アメリカ|カラー|シネマスコープ・サイズ|SRD、SDDS、DTS
関連ホームページ:http://www.torque.jp/
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