ヴィレッジ

2004/09/16 錦糸町シネマ8楽天地(シネマ4)
シャマラン監督は「何を描くか」より「どう描くか」にご執心。
話そのものに新しさはないんだけどね。by K. Hattori

 『シックス・センス』で世界中の度肝を抜き、『アンブレイカブル』と『サイン』で賛否両論の物議を醸したM・ナイト・シャマラン監督の最新作。タイトルの『ヴィレッジ』とは「村」の意。19世紀末のアメリカで、平和を愛する穏やかな人々が暮らす小さな村が舞台になっている。数十年前に町からこの村に移り住んで来た人々は、周囲を取り囲む深い森に住む魔物たちに脅かされていた。だが村人たちは自分たちが決して森に入らないことを条件に、魔物たちが村を襲ったり家畜に手をかけたりしないという協定を結んでいるのだ。その協定はここ数十年の間、破られることなく守られてきたのだが……。

 常にミステリーの要素を映画に持ち込み観客をドラマに釘付けにするシャマラン作品だが、この映画のミステリーは「協定とは何か」「魔物の正体は何か」「村の長老たちは何を隠しているのか」「過去に町で何があったのか」といったことだろう。こうした謎の提示と同時進行するのが、ホアキン・フェニックス演じる若い農夫ルシアスと、ブライス・ダラス・ハワードが演じる盲目の少女アイヴィーのロマンスだ。深い愛情で結ばれたふたりの絆が、映画終盤のドラマに必然性と説得力を生み出す原動力になる。

 映画はひとりの少年の死という痛ましい場面から始まる。そして全体を覆っているのは、悲痛な「死」のイメージだ。ルシアスの瞳はいつも悲しみに満ちている。村の運営責任者である長老たちも、ほとんどが深い悲しみの表情をたたえているように見える。この映画はホラー・ミステリー仕立ての奇想天外な物語になっているものの、テーマの根底にあるのは「死」や「暴力」に対する恐れと不安と嫌悪なのだ。知的障害を持つノアという青年だけは、いつも天真爛漫に笑っている。しかしそれ以外の人々は、いつも村の境界線の向こう側にある何かにビクビクと怯えて暮らしている。笑顔は控え目であり、罪のない悪ふざけは瞬時に恐怖へとすり替わる。

 平和なはずの村が、じつは恐怖に支配されているという現実。底知れぬ恐怖こそが、平和を作り出しているという皮肉。

 シャマラン監督はこの映画で、村に隠された秘密の種明かしを物語の半ばを過ぎた場所に準備している。『シックス・センス』や『サイン』で最後のドンデン返しに驚いた人は、今回あまりにもあっけなく秘密が暴露されることに逆に驚くかもしれない。だがこの映画で、主人公たちの本当の冒険はここから始まるのだ。秘密も種明かしも越えたところに、この映画が描こうとする「真実」がある。それは大切な人を守りたいという愛情であり、そのためには自分にどんな危険があろうと厭わない自己犠牲と勇気だ。

 本作が初の本格的な映画出演作になるブライス・ダラス・ハワードが、この映画で最大の収穫だろう。ロン・ハワード監督の娘。美人とはちょっと違うが、意志の強そうな顔立ちがいい。

(原題:The Village)

9月11日公開 日劇3他・全国東宝洋画系
配給:ブエナビスタ
2004年|1時間48分|アメリカ|カラー|アメリカンビスタ|DTS-ES、Dolby EX 6.1、SDDS
関連ホームページ:http://www.movies.co.jp/village/
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