ニュースの天才

2004/08/05 GAGA試写室
アメリカの一流誌で起きた記事捏造事件を映画化。
細部の描写が臨場感たっぷり。by K. Hattori

 アメリカ大統領専用機エアフォースワンの中に唯一常備されているという雑誌「ニュー・リパブリック」は、発行部数こそ少ないものの記事のクオリティの高さで知られ、社会的な影響力も大きな存在だった。ところが1998年、この雑誌の編集部でとんでもない事件が起きる。若い編集者スティーブン・グラスの書いた記事が、事実無根のものであることが発覚したのだ。ライバル誌からの指摘でこの事実に気づいた編集部は、当初グラスが情報源に一杯食わされたのだと考える。ところが編集長らが現場検証をしてみたところ、グラスが取材したと称する人物までがでっち上げだったことが発覚。つまり記事は一から十まで、すべてグラスの創作だったのだ。

 『ニュースの天才』はアメリカの出版報道界を仰天させた実話の映画化だ。野心あふれる若い編集者スティーブン・グラスを演じるのは、『スター・ウォーズ』の新シリーズで青年時代のアナキンを演じるヘイデン・クリステンセン。監督・脚本はこれがデビュー作となるビリー・レイ。彼は事実を忠実に再現するために、事件の起きた「ニュー・リパブリック」の元編集長や現役の編集者たちに取材し、撮影に際してもいちいちアドバイスを受けたという。そのせいかこの映画は、編集部内部の様子がじつにリアルに描けている。もちろん僕は、雑誌の編集部に勤めていたことなどない。それでも綿密に積み上げられたディテールの集積は、映画を観る人にいかにも本物らしい雰囲気を伝えるものだ。

 この映画を観て改めて驚かされたのは、ジャーナリズムの世界では「事実」というものがいかに重要視されているかという当たり前のことなのだ。書かれた記事を何人もが厳重にチェックし、事実関係から言葉の選び方、文章の構成に至るまで、とにかく徹底的に赤ペンで添削しまくる。資料や取材ノートと記事を照らし合わせ、矛盾するところや曖昧なところがあれば、それは報道として失格なのだ。ところがこうしたチェック体制を、グラスの捏造記事は簡単にすり抜けてしまう。彼は記事だけでなく、取材メモ、相手からのボイスメール、ファックス、電子メール、会社のホームページまで、すべてでっち上げていたのだ。これでは取材ノートと記事を比べたところで、矛盾など生じようがない。

 映画はグラスの作り上げた虚構がいかに崩れていくかをスリリングに描くと同時に、スティーブン・グラスの興味深い人物像や、編集部内部にあるグラスへの羨望やライバル意識もあぶり出していく。グラスの捏造を暴くきっかけになったライバル誌の編集部でも、あわよくば自分も注目を浴びたいという編集者の功名心や野心が渦巻いていることをにおわせるあたりはうまい。

 編集者や記者が事件をでっち上げるのは、日本でも時々あることだ。映画関係の虚報としては、1998年2月に毎日新聞が『ナヌムの家』上映時に起きた“事件”を創作した例がある。

(原題:Shattered Glass)

秋公開予定 ヴァージンシネマズ六本木ヒルズ
配給:ギャガ・ヒューマックス共同配給
2003年|1時間34分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|ドルビーSR、ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.news-tensai.jp/
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