運命人間

2004/07/29 映画美学校第1試写室
現代のノストラダムスに未来を予言された男の運命。
奇妙な話だけれど、どうも腑に落ちない。by K. Hattori

 ペットの探偵として田宮は、迷いネコ探しの依頼で訪問した家で奇妙な夫婦に出会う。家の主人・毛利五郎は現代のノストラダムスと言われる予言者。彼は「あなたは私の妻とセックスし、嫉妬した私は妻を殺すでしょう」と言う。この予言は100%確実であり、運命から逃れる方法はないのだという。薄気味悪く感じながらも、金のためにこの依頼を受けざるを得なかった田宮だったが、この予言をすっかり受け入れた毛利の妻は「私とあなたが結ばれるのは運命です」と田宮に迫る。送りつけられたビデオにはいくつかの予言があり、それはことごとく的中してしまった。運命から逃れるべく、田宮は親友・安西の妹と結婚することで、毛利家とは距離を置こうとする。だがここで毛利は新しい予言をする。それは前の予言より、さらに恐ろしいものだった……。

 映画番長シリーズの第3弾「ホラー番長」の1作で、監督は『完全なる飼育/愛の40日間』の西山洋市。主人公の田宮を豊原功補が演じ、共演には内木英二、小松みゆき、蒲田哲、中村愛美といった顔ぶれが並んでいる。物語としてはホラーというより、『トワイライトゾーン』などに通じる「不思議な話」「奇妙な話」の系譜だろう。予言をする不気味な男と、それから逃れようときりきり舞いする男という話はありきたりだが、そこに男女のセックスや嫉妬の問題をからめていくのがミソだろうか。

 話を整理してしまえば単純に見えるのだが、僕はこの映画の主人公がよくわからなかった。パチンコに勝っても、素直に「嬉しい」と言えない。人妻に欲望を抱いても、素直にそれを言葉にすることが出来ない。これはわかる。しかしその時、主人公が本当のところ何を考えていたのかがわからない。ただ単に迷惑だったのか、それとも欲望を抑え込んでいたのか。こうした主人公の内面が見えにくいので、新婚の妻に拒絶されて嫉妬するというその後の彼の心情もわかりにくくなっている。彼はそもそも、この妻をどう思っているのか。ただ人妻に迫られるのが嫌だという理由で、彼女を遠ざけるためだけに、親友の妹をもらったのだろうか。それとも借金の清算が目的なのか。よくわからない。

 主人公は与えられた予言に支配され、やがて予言を自ら成就するかのように行動し始める。だがこれは悲劇なのか、それとも喜劇なのか。どちらとも解釈できるモチーフを、どちらとも解釈できるように提示されても戸惑うばかりだ。猫人間には、笑えばいいのか、恐がればいいのか……。

 ホラー映画というジャンルからするとかなり型破りな作品だと思うが、そもそもこの映画、ホラー映画らしい要素がまったくない。「ホラー番長」と銘打ったシリーズの1本としては、用意された土俵に登ることなく終わっている作品とも思える。型破りな作品は、型を前提として生まれるものだ。この映画からは、前提となる型をまるで無視した場違いさを感じる。

10月上旬公開予定 ユーロスペース
配給:ユーロスペース 宣伝:イメージリングス
2004年|1時間25分|日本|カラー|16:9|DV
関連ホームページ:http://www.eigabancho.com/
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