モンスター

2004/07/23 GAGA試写室
シャーリーズ・セロンが連続殺人犯を演じる実録犯罪映画。
キャラクターに有無を言わさぬ説得力。by K. Hattori

 連続殺人鬼の本場アメリカでも、女性が連続殺人を犯す例はそれほど多くない。1991年に逮捕されて6件の殺人事件で死刑判決を受け、2002年10月9日に処刑されたアイリーン・ウォーノスは、アメリカでも数少ない女性の連続殺人犯。『モンスター』は彼女を主人公にした実録犯罪映画だ。強盗殺人を繰り返しながら同性愛の恋人ティリア・ムーアと一緒に逃げ回っていたウォーノスは、映画『テルマ&ルイーズ』のモデルとも言われている。だが『テルマ&ルイーズ』は事件に触発されたフィクション。『モンスター』は処刑されたアイリーン・ウォーノス本人に取材し、実際に事件が起きた場所も撮影に使ったノンフィクション・ドラマだ。ただしアイリーンの同伴者だったティリア・ムーアには映画化の許可が取れなかったらしく、劇中ではセルビーという名前に変えられている。

 監督・監督のパティ・ジェンキンスはこの映画が長編デビュー作だというが、ずっしりと手ごたえのあるしっかりした作品になっている。だがこの映画で最大の功労者は、アイリーンを演じたシャーリーズ・セロンだろう。『サイダー・ハウス・ルール』や『コール』の美人女優が13キロも増量してダブダブにゆるみきった肉体を作り、メイクと特殊な義歯で顔形を変え、いかにも育ちの悪そうなだらしないしゃべり方をマスターして、中年の連続殺人犯に成りきっている。これはもうまったくの別人。何も知らない人に『サイダー・ハウス・ルール』と『モンスター』を続けて観せても、誰も主演女優が同一人物だとは気づかないだろう。なお彼女はこの映画のプロデューサーも兼任している。

 映画はアイリーン・ウォーノスとセルビーの出会い、最初の殺人、逃避行、繰り返される殺人、逮捕から死刑判決までを描いているが、どれもすべてウォーノス本人の一人称で、ウォーノスの告白調のナレーションで語られている。ここで描かれているのが、すべて実際にあった事実そのままではないだろう。しかし映画はそれでいいのだ。映画は「事件」を語るのではなく、事件の中にある「人間」を語るものだからだ。人間の真実を語るために、あえて変更しなければならない事実もあるだろう。ティリア・ムーアの名がセルビーに化けたとしても、それによって「真実」が消えるわけではない。

 男性の連続殺人犯が多くの場合殺人行為の中に性的快楽を見いだしているのに対し、ウォーレスの殺人は「男性に対する憎悪」から生まれたものだ。幼い頃に両親に棄てられ、家族から性的な虐待を受け、十代半ばにはいっぱしの売春婦になっていた彼女は、女に暴力を振るい、女を金で買う男たちに復讐するかのように銃を撃ち続ける。だがいつしかその暴力の矛先は、自分自身に向かってしまうのだ。

 セルビー役のクリスティーナ・リッチもうまい。ひ弱で受け身の少女が、いつしかウォーレスを操るようになる恐ろしさ。

(原題:Monster)

初秋公開予定 シネマライズ
配給:ギャガGシネマ 宣伝:ギャガGシネマ風 協力:松竹
2003年|1時間49分|アメリカ|カラー|ヴィスタサイズ|SRD、ドルビーSR、デジタル、DTS
関連ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/
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