IZO

2004/07/07 東映第1試写室
幕末の刺客・岡田以蔵が暴力神として現代に復活する。
出演者がやたら豪華な不思議映画。by K. Hattori

 慶応元年閏5月11日。京都の町で「人斬り以蔵」と恐れられた土佐出身の剣客・岡田以蔵は処刑された。だが彼の魂は生き続け、不滅の肉体を伴って平成の世に復活する。以蔵に怨みを持つ霊界の住人たち、以蔵の復活を快く思わない死者たち、以蔵の出現に脅威を感じる者たちなどが次々と以蔵の前に立ちはだかるのだが、以蔵は彼らをバサバサとなぎ倒して行く。以蔵はどこに向かおうとしているのか……。

 武知鎮典の奇想天外な脚本を、三池崇史監督が映像化した殺戮チャンバラ映画。出演者は超豪華で、おそらくメジャーの映画会社でも今これだけのメンバーを揃えるのは難しいだろうという顔ぶれ。ビートたけし、桃井かおり、松田龍平、石橋蓮司、ボブ・サップ、片岡鶴太郎、松方弘樹、内田裕也、緒形拳、夏樹陽子、原田芳雄などの名前は、出演者のごく一部に過ぎない。ワンシーンのみのカメオ出演で、出てくる出てくるスター級の大物俳優たちがぞろぞろと……。たぶんこの映画でもっとも無名の俳優は、主人公・以蔵を演じた中山一也だと思う。この人って誰?

 以蔵は時空を越えてありとあらゆる場所に出没する。それは古代の日本であり、戦国時代であり、幕末であり、太平洋戦争まっただ中であり、平成の現代だ。以蔵はそこでいつも血みどろの戦いをしている。目の前に立つ人間を老若男女の区別なく、斬って斬って斬りまくり、全身がその返り血で真っ赤に染め上げられる。ここにいる以蔵は、もはや幕末の剣客・岡田以蔵ではない何者かだ。それは「暴力」という概念が、ひとつの肉体に結晶したもののようにも見える。以蔵という個人を越えた暴力神“IZO”は、斬っても死なない、突かれても死なない、撃たれても死なない。暴力は不死身なのだ。暴力に国境はない。ボブ・サップとだって闘う。英語だって喋っちゃうぞ!

 暴力を止めるに、暴力をもって対抗するという人々がいる。暴力を止めるに、話し合いをもって止めようとする人々がいる。だがそのどちらも、IZOという暴力に蹴散らされてしまう。残るのは血まみれの死体の山のみ。IZOは人間やモンスターというキャラクターすら吹き飛ばし、台風や竜巻のように人々をなぎ倒す。IZOを演じているのが、どこの誰だかわからない無名の俳優(といっては失礼だが)だというのが、この映画ではかえって効果的だ。この映画のIZOは、観客からの一切の感情移入を拒む。劇中のIZOは近づく者たちをことごとく斬り捨てるのだが、この映画はIZOに感情移入しようとする観客の気持ちすら斬り捨てる。そこに一切の容赦や妥協は存在しない。

 映画として面白いかと言えば、ひどく詰まらないと思う。正直言って、これで2時間8分は疲れてしょうがない。でもこの「疲労感」こそが、映画の作り手が観客に求めたものなのかもしれない。そんな深読みすらできてしまう、狂ったパワーを秘めた怪作。

8月中旬公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:チームオクヤマ 配給協力・宣伝:オムロ
2004年|2時間8分|日本|カラー|ヴィスタサイズ|ステレオ
関連ホームページ:http://www.izo-movie.com/
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