リバイバル・ブルース

2004/07/02 映画美学校第2試写室
26年前に解散したブルースバンドのメンバーが再会する。
出演は内藤剛志、奥田瑛二、桃井かおり。by K. Hattori

 出張で沖縄を訪れた健は、ずっと以前にバンド仲間だった洋介の店を訪ねる。だが彼は健の顔を見ても目を背け、あまり嬉しそうな顔もしない。ふたりの間には26年前のバンド解散について、いまだ解消しないわだかまりが残っているのだ。「もう一度バンドをやってみないか」と言う健の目の前で、急に倒れる洋介。彼の身体は末期ガンに蝕まれていた。病身の洋介を説得し、ボーカル担当だった加代を引っ張り込み、健は昔のバンドを一夜だけ復活させて大はしゃぎ。昔の友情が復活したような、そんな気分。健はホテル住まいだった洋介と彼の妻・静香を自分のマンションに招き、洋介の最後を自分のそばで見取って献身的な介護を始めるのだが……。

 監督は『Keiko』『ケニー』のクロード・ガニオン。主人公の健を内藤剛志が演じ、洋介役には奥田瑛二、加代役に桃井かおりという豪華な顔ぶれ。映画はこの3人を中心にした「友情物語」という形を取っているように見えて、じつは主人公・健の強烈なエゴイズムを描くドラマになっている。はたして健が洋介を介護しようとしているのは、彼の「友情」によるものなのか? それとも、もっと別の何かが存在するのだろうか?

 死んでいくかつての友を間近に見ながら、健は逆にどんどん生き生きしていく。エネルギーが身体の奥底からあふれ出し、それが女性に対する際限のない欲望として健を突き動かしていくのだ。死にそうな人間を目の前にして、健は自分が生きている実感を取り戻す。死の床にいる洋介は、健にとって何にも替え難い強壮剤なのだ。真夜中のリビングで、健と洋介がセックスについて語り合う場面が印象的だ。病気で不能になったと告白する洋介に対し、勝ち誇ったように自分の女性関係をぶちまける健の嬉しそうな顔!

 映画を観ていると、まるで健が他人の生き血を吸う吸血鬼のように見えてくる。健は洋介の生気を吸って、自分が元気になっているのだ。次々女に手を出していく健の姿は、やがてモンスターのように見えてくる。健の妻・静香の姿を、欲望の眼差しで見つめる健。だがそんな健も、心理的に依存している洋介がいなくなってしまうと、とたんにしょんぼりとした中年男に逆戻りしてしまうのだ。

 内藤剛志という俳優はどちらかというと人のいい、善良で誠実な人物を演じてきた印象があるのだが、今回の映画はそれとまったくかけ離れていて新鮮だった。健という男はどうしようもないエゴイストなのだが、かといって「悪人」というわけではない微妙な役柄。もともと自らの欲望に対して抑制が利かない、弱い心の持ち主なのだろう。長く封印されていたそんな性格が、洋介と再会することで表に浮上してきたのではないか。洋介の死後、腑抜けのように静香を見送る健の姿は哀れだ。大はしゃぎしてそれまでの日常を破壊してしまった彼に、もはや返るべき場所など残されていないのだから。

秋公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:エレファントピクチャー
2004年|2時間00分|カナダ、日本|カラー|ドルビーSR
関連ホームページ:http://www.imageforum.co.jp/theater/
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