歌え!ジャニス・ジョプリンのように

2004/06/30 メディアボックス試写室
平凡な主婦がジャニス・ジョプリンに変身するのだが……。
マリー・トランティニャンの遺作。by K. Hattori

 保険会社に勤めながら客の金を不正に着服していたパブロは、事故など起こしっこないはずの客がまさかの事故をこしたことから、修理代50万フランを自前で支払わねばならぬ羽目になる。金が用意できなければ、横領がばれて自分は刑務所行きだ。そんな彼の耳に飛び込んできたのは、アタマのおかしな従兄弟レオンに100万フランの遺産が転がり込んだというニュース。レオンはジョン・レノンとジャニス・ジョプリンの熱狂的なファンだが、ふたりが既に死んでいるという事実がうまく飲み込めていない様子。パブロは妻ブリジットの風貌がジャニス・ジョプリンに少し似ていることに気づくと、妻をジャニス・ジョプリンに変装させ、ジョン・レノンに扮した貧乏役者とコンビで、レオンに金を無心させようと思いつく。レオンはふたりを本物のジャニスやジョンだと信じ込んでくれたのだが……。

 ジャニス・ジョプリンに化けるブリジットを演じているのは、これが遺作となったマリー・トランティニャン。この映画の撮影終了後に恋人とのケンカがもとで意識不明の重体に陥った彼女は、映画の完成を観ることなく息を引き取ってしまった。マリー・トランティニャンの元夫でもあったサミュエル・ベンシェトリ監督は映画の公開中止を考えたが、マリーの父であり、この映画にも出演しているジャン=ルイ・トランティニャンに励まされて映画の公開を実現したという。マリーにはベンシェトリ監督との間に生まれた子供を含め、父親の違う4人の子供がいたのだが、彼女の死後はベンシェトリ監督が全員を引き取ったという。この映画はコメディなのだが、コメディ映画には似つかわしくない湿っぽいエピソードが付きまとうことになってしまった。

 地味で平凡な主婦が家庭を守るために無理矢理ジャニス・ジョプリンの扮装をさせられ、その役を演じ続けるうちに、自分の中にあったジャニス・ジョプリン的なキャラクターを開花させるという話のアイデアは面白い。しかし従兄弟が相続した遺産を騙し取るという動機は、ヒロインがジャニスであり続けなければならない理由として無理があるように思う。マリー・トランティニャンがジャニス・ジョプリンを演じるという面白さを実現させるために、もう少し脚本段階で知恵を絞ってもよかったのではないだろうか。パブロとブリジットのモノローグを使うというアイデアが、途中で機能しなくなっているのは残念。モノローグをうまく使えば、さらに面白いことがいろいろできそうなのに。

 ジャニスそっくりに化けたヒロインが、歌いそうでなかなか歌わないのがミソ。最後の最後に彼女が「コズミック・ブルース」を歌うシーンは、どうやらマリー・トランティニャン本人が歌っているらしい。それまでのフラストレーションがあるから、「よくぞ歌ってくれました!」って感じなのだ。でもこの場面、口パクなのが見え見えで臨場感に欠けるのは残念でした。

(原題:JANIS ET JOHN)

8月7日公開予定 シャンテシネ
配給:ギャガ・コミュニケーションズ、東京テアトル
宣伝:ライスタウンカンパニー
2003年|1時間44分|フランス、スペイン|カラー|シネマスコープ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/
ホームページ
ホームページへ