いつか会える

2004/06/19 パシフィコ横浜
銀行強盗の青年とヨーロッパを逃避行する少女は……。
デジカムのモノクロ映像が新鮮。by K. Hattori

 『発禁本〜SADE』でサド公爵に調教される娘を演じ、『ロベルト・スッコ』では連続殺人犯の恋人を演じていたイジルド・ル・ベスコが、今度は銀行強盗殺人犯の恋人としてヨーロッパ各地を放浪する。役柄の上とはいえ、男運が悪すぎじゃなかろうか。なぜこうした役が続くのか。こうした役が好きなのか。それとも単なる偶然なのか。監督は彼女と一緒に『発禁本〜SADE』や『イザベル・アジャーニの惑い(原題:アドルフ)』を作ったブノワ・ジャコ。デジカムを使ってモノクロ撮影された映像を35mmフィルムに変換した映像は、ヌーヴェル・バーグ初期の映画を思わせる。

 1975年の春。美術学校に通う19歳の少女は、友人とカフェに入ったところで若い男に声をかけられる。だが少女の視線はその男より、その背後にいるエキゾチックな顔立ちの青年に引きつけられた。しばらくして、少女はその青年とつきあい始める。だが間もなく彼からかかってきた1本の電話。「銀行強盗をして人を殺した。テレビニュースを見ろ」。警察から逃げた青年を部屋にかくまった少女は、そのまま彼らと共に逃亡の旅に出る。スペイン、モロッコ……。逃亡の中で奪った金を大判振る舞いしていれば、沢山あった金もあっという間に底をつく。ギリシャの税関で少女が係員に呼び止められた時、恋人の青年や共犯者たちは身の危険を感じてか、少女を置き去りにしてそのまま姿を消してしまった。

 時代がなぜ1975年でなければならないのかはよくわからないが、世界中から来たバックパッカーがどこにでもウロウロしている現代のヨーロッパでは、少女が異郷に取り残されてしまうと言う物語は成立しない。EU統合された現代のヨーロッパからは考えられないぐらい、30年前のヨーロッパは広かった。この映画の主人公たちが訪れるスペインはヨーロッパの西の端。そこから地中海を渡ってモロッコ、そしてヨーロッパ東端がギリシャだ。少女はそこで恋人に置き去りにされる。

 恋人からこんな仕打ちを受けてさえ、少女は彼に再会することを願っている。このあたりの気持ちがもはや僕には理解できないのだが、演じているのがイジルド・ル・ベスコだとそれが何の不自然さもなく成立してしまう。離れていった男に対して、さっさと気持ちの切り替えができない娘なのだ。恋人からひどい扱いを受けても、それを受容してしまう。ブノワ・ジャコの映画では、『イザベル・アジャーニの惑い』のヒロインも似た感じだった。一度愛した男を、ごく当たり前のようにどこまでも愛し続ける。ジャコ監督にとっては、これが馴染みのヒロイン像なのかもしれない。僕にはよくわかんないけど……。

 ヒロインの恋人を演じたオアッシーニ・エンバレクは、ニール・ジョーダンの『ギャンブル・プレイ』にも出演していた若手俳優。彫刻のような精悍な風貌は印象的で、ヒロインが一目で恋に落ちる相手にふさわしい。

(原題:A tout de suite)

6月19日上映 パシフィコ横浜
第12回フランス映画祭横浜2004
配給:未定
2004年|1時間35分|フランス|モノクロ
関連ホームページ:http://www.unifrance.jp/yokohama/
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