ビッグ・フィッシュ

2004/06/11 日比谷スカラ座1
ホラ吹き名人の父親と、父のホラ話を憎んだ息子の和解。
ティム・バートン監督の新しい傑作。by K. Hattori

 一貫して個性的で良質のファンタジー映画を撮り続けてきたティム・バートン監督が、ダニエル・ウォレスの同名小説を映画化。自分の人生を徹底してホラ話にしてしまう父親と、そんな父を嫌って遠ざかっている息子が、父の死の直前に互いを理解し和解するドラマだ。物語そのものにファンタジーの要素は特にないのだが、父親の「ホラ話」を映像で再現した部分はファンタジーとしか言いようがないぶっ飛びぶり。こうした話を「父の話は全部嘘だ」「父さんは少しも本当のことを話してくれない」と忌み嫌う息子が、ホラ話に隠された真実に気づく課程を通して、バートン監督は「ファンタジーを語り続ける意味」について語っている。劇中でアルバート・フィニーが演じるホラ話好きの父親や、父と和解してホラ話を継承していく息子を、バートン監督は自分の分身のように考えているのではないだろうか。

 物語の構成としては、アルバート・フィニーとビリー・クラダップが演じる親子の「現在」の物語と、ユアン・マクレガーがフィニーの若い頃の冒険を再現する「過去」の物語から成立している。ユアン・マクレガーが年を取るとアルバート・フィニーになるというのは意外な発見だが、マクレガーが年を取るとアレック・ギネスになるというキャスティング(『スター・ウォーズ』シリーズ)よりはずっと真実味が感じられる。クラダップはフィニーにもマクレガーにもまるで似ていないのだが、これは描かれている親子関係が「最も身近な他人同士」であることを象徴的に示している。外見的にはまるで異なる親子が、見えないところでつながっているというのがこの映画のテーマなのだ。

 キャスティングで驚いたのは『ホワイト・オランダー』や『マッチスティック・メン』のアリソン・ローマンが、年を取るとジェシカ・ラングになるというもの。ローマンはラングの若い頃にちっとも似ていないのに、ちゃんとひとりの女性の現在と過去に見えるのは大したもの。ヘレナ・ボナム=カーターも『PLANET OF THE APES/猿の惑星』の猿メイクに負けずとも劣らないすごいメイクで映画に登場する。

 バートンの映画はこれまでもファンタジーを通して世の中の「真実」を描いていたわけだが、「真実=現実」というわけではない。それはあくまでも、ファンタジーのフィルターを通して描かれた真実だ。だが今回の映画は、少なくとも「現在」の場面に関しては「現実」の上に立脚したリアルな世界が描かれる。バートンの映画で、これほど生々しい現実が描かれたことは、これまでになかったのではないだろうか。だがその現実も、やがてはバートン流のファンタジーに浸食され、最後はファンタジーと現実が寄り添うように共存する新しい世界が切り開かれる。バートン監督の新境地だ。

 それにしても、スティーブ・ブシェミやダニー・デビートが出てくると安心するのはなぜだろう。

(原題:Big Fish)

5月15日公開 日比谷スカラ座1他・全国東宝洋画系
配給:ソニー・ピクチャーズ
2003年|2時間5分|アメリカ|カラー|ビスタ|DTS、ドルビーデジタル、SDDS
関連ホームページ:http://www.big-fish.jp/
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