ウォルター少年と、夏の休日

2004/06/02 日本ヘラルド映画試写室
豪華キャストがかえってあだとなっているような映画。
マイケル・ケインが立派すぎるよ。by K. Hattori

 映画の売りは「スクリーンで観たい脚本No.1(MOVIELINE誌より)を完全映画化!」というものらしいが、この映画は優れた脚本が必ずしも優れた映画になるわけではないことを証明してしまった。監督・脚本は『テキサス、ポップ81』で監督デビューし、『アイアン・ジャイアント』の脚本家としても知られるティム・マッキャンリーズ。出演は『シックス・センス』『A.I.』のハーレイ・ジョエル・オスメントと、大ベテランのマイケル・ケイン、ロバート・デュバル。主人公ウォルター少年の母親役にはキーラ・セジウィック。

 物語の舞台になっているのは1960年代のテキサスだ。母親が速記学校に通う間だけという約束で、田舎の親戚宅に強引に預けられた14歳のウォルター少年。そこには変わり者の大伯父兄弟ハブとガースがふたりきりで住んでいた。この大伯父たちは素性に謎めいたところがあり、家のどこかに大金を隠し持っているという噂もあるのだ。何かあるとすぐにライフルをぶっ放す大伯父たちの荒っぽさに、最初は驚いたウォルターだったが……。

 人物配置やエピソードなどはそれぞれ面白く書かれていると思うが、それが演出や映像表現とうまく噛み合っていないような気がする。一番の問題は大伯父を演じたマイケル・ケインとロバート・デュバルが、ミスキャストに思えて仕方ないことだ。デュバル演じるハブ・マッキャンは、若い頃に二十人力の勇者として名を馳せ、アラブの王女と恋に落ちたり、その婚約者だった族長と戦って勝利したというマッチョ型のヒーロー。でもそれを演じるデュバルは、マッチョ型のヒーローとはもっとも縁遠いところにいた俳優ではないだろうか。ハブを演じる俳優には、往年のアクション俳優をキャスティングすべきだったのだ。またイギリスの名優でナイトの称号を持つマイケル・ケインを、荒っぽいテキサス男にしようというのも無理がある。この役は狂言回しなんだから、無名の俳優でも十分だったはず。

 原題の『Secondhand Lions』は劇中に登場する老いたライオンのことだが、これは当然、かつての英雄ハブ・マッキャンの年老いた現在と二重写しになっているはず。ところがこれが、映画の中でうまく機能していない。これはやはり、ロバート・デュバルが「老いたライオン」には見えないからではないだろうか。

 舞台がテキサスであることからもわかるとおり、大伯父たちの奇想天外な冒険譚は南部特有のほら話の系列だろう。この回想シーンには、もっときらびやかなイメージがほしかった。テリー・ギリアムの『バロン』とか、ジョニー・デップが主演した『ドンファン』とか、(僕はまだ未見だけど)ティム・バートンの『ビッグ・フィッシュ』とか……。まず間違いなく本当の話ではないんだけど、それが「真実かどうかは別として、信じる価値のあるもの」でなくてはなるまい。

(原題:Secondhand Lions)

7月公開予定 丸の内ピカデリー2他・全国松竹東急系
配給:日本ヘラルド映画
2003年|1時間50分|アメリカ|カラー|ビスタ|ドルビーSRD、SDDS
関連ホームページ:http://www.herald.co.jp/official/s_hand_lions/
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