マッハ!

2004/05/25 新宿東急
タイ映画界が放つ本格派ムエタイ・アクション映画。
主演のトニー・ジャーがすごい! by K. Hattori

 敬虔な仏教徒たちの国として知られるタイ。だが国家の経済成長は地方の若者たちを都会へと押しやり、そこで田舎暮らしをしていた頃の純朴さをはぎ取っていく。一見のどかに見えるノンプラドゥ村も、残念ながらその例に漏れなかった。村人たちの信仰を集めるオンバクという仏像の首が、村出身のドンという若い男に盗み出されたのだ。オンバクの祭が終わるまでに仏像の首を取り戻さなければ、村には大きな災いが降りかかるだろう。ドンからオンバクの首を取り戻す使命を受けて、村で育ったティンという若者がバンコクに向かったのだが……。

 古式ムエタイの達人である主人公ティンが、大都会バンコクで仏像を取り戻そうと大活躍する物語。村の宝を取り戻そうとする主人公の行動が、タイ国内から海外に不法に流出していく美術品を守ることにつながるという、きわめて愛国的なストーリーだ。主人公ティンを演じているトニー・ジャーはスタントマン出身。幼い頃にブルース・リーやジャッキー・チェンの映画を観て映画スターを志し、訓練によってムエタイやカンフーの技をその身体にたたき込んだというジャーの存在なしに、この映画はあり得ないと思う。

 アクションシーンは古式ムエタイの型をベースに組み立てられているが、見せ方としては香港のカンフー映画からたっぷりテクニックを学び取っている。香港映画流の洗練されたアクション演出と撮影テクニックに、エキゾチックなムエタイの技がドッキング。カットを割ってアクションを途切れさせることはせず、なるべくフルショットのワンカットで、アクションの全体を包み隠さず見せるというのがこの映画の方針だ。素早い技の連続をスローモーションで丁寧に見せることはあっても、早回しでスピードを上げることはしない。

 映画前半にある繁華街での追跡劇は、個々のアイデアについてなら香港映画でも観たことのあるようなもの。しかしそれを一続きのアクションシークエンスにつなげ、緊張感たっぷりの追い駆けっこに見せるにはそれなりの構成力が必要。主演俳優の体技ばかりがクローズアップされそうな映画だが、このシーンでは監督の見せ方の上手さが光っている。

 だが観客が目をまん丸にして驚くのは、ムエタイの動きを取り入れた戦闘シーンの数々だろう。ありとあらゆる体勢から飛び出す、蹴りやパンチ、ヒジ打ちなどの打撃技。身体がまったく無駄なく動き、ひとつの動きからノンストップで次の攻撃動作に移っていくのは一種のカルチャーショックだ。特に大勢の敵を相手にしたクライマックスの乱闘では、パンチやキックを実際に相手に当てるフルコンタクトのバトルが続く。こうしたアクロバティックなアクションはどうしても見せ物風になって戦いのリアリズムが失われがちになるものだが、この映画では相手役のスタントマンもリアクションが上手くて、観ていて本当に痛そうな場面になっているのは関心した。

(原題:ONG-BAK)

夏公開予定 渋谷東急他・全国松竹東急系
配給:クロックワークス、ギャガ・ヒューマックス共同配給
宣伝:ギャガ宣伝サウス、クロックワークス、ドラゴンキッカー
2003年|1時間48分|タイ|カラー|ビスタ
関連ホームページ:http://www.mach-movie.jp/
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