すばらしい蒸気機関車

2004/04/16 映画美学校第2試写室
1970年に撮影された蒸気機関車のドキュメンタリー映画。
作り手のSLへの愛情が伝わってくる。by K. Hattori

 新作『愛なくして』の公開が控えている高林陽一監督が、1970年に製作した初の35mm作品。1970年(昭和45年)当時、全国のローカル線で現役運行していた蒸気機関車を丹念に取材し、フィルムに収めたドキュメンタリー映画だが、機関車の製造年や製造台数、映画製作時点で運行している台数などを羅列していくカタログ的な語り口と、詩や歌、イメージ映像などを織り交ぜた叙情的な語り口が不思議に溶け合っている。

 高林監督はそもそも蒸気機関車や鉄道のマニアらしく、この映画以外にも『機関車のある風景』(65年)、『御殿場線−機関車D52の記録』(66年)、『機関車D51』『初夏を行く宮津線』(66年)、『丹波路に向かって−機関車C57』(68年)、『最後の蒸気機関車』(73年)といった作品を撮っている。(これはタイトルからそれらしい物を拾っているだけなので、他にもあるのかもしれない。)この映画は高林監督にとって、それまで撮っていた蒸気機関車映画の集大成という意味合いがあったのだろう。

 この映画は春夏秋冬の日本の四季を織り交ぜながら、日本の風景の中を走る蒸気機関車の姿を記録している。映画から伝わってくるのは、蒸気機関車に対する惜別の念だ。この映画が作られた時点で、蒸気機関車は既に消えていく運命にあった。各地で最新鋭のディーゼル車が導入され、主要幹線は電化されていた。この映画が作られる6年も前に、東海道新幹線が既に開通しているのだ。蒸気機関車はこの映画の後、わずか数年で日本中から姿を消してしまった。(北海道はこの後も少し機関車が残る。)映画は消えゆく機関車たちに、サヨナラの手を振るために作られたのだ。映画製作時点でまだ現役車両がそれなりの台数運行していたにもかかわらず、ナレーションではそれをすべて「この時点では○○台が運行していました」と“過去形”で語っている。蒸気機関車の命運は、既にこの映画の時点でつきていたのだ。

 映画は各蒸気機関車の製造年や製造台数、主要スペックなどを次々に紹介して、まるで蒸気機関車の動くカタログのような作りになっている。この映画では駅員や機関士など、蒸気機関車に関わる鉄道関係者にはほとんどスポットが当たらない。そのかわり登場するのが、線路ぎわから機関車を見つめるひとりの少女の姿だ。劇中にはこの少女の心情を代弁するような歌が何度も流れる。音楽を担当したのは大林宣彦。ちょっぴりオセンチな「少女と機関車の図」が、鉄道マニア的なカタログ・スペックの羅列の硬質さを和らげる。

 蒸気機関車は今でも人気があるので、こうした映画は今からDVDにしてもちゃんと売れるのではないだろうか。高林監督の他の蒸気機関車ものと合わせて、DVD2枚組ぐらいで全集を作れば1万円ぐらいの値付けができそうだけど……。

 試写では監督の処女作『南無』を併映。

6月中旬公開予定 ポレポレ東中野
「特集上映 魂のシネアスト−高林陽一の宇宙」
配給:シネマトリックス、シネヌーヴォ
配給・問い合わせ:シネマトリックス 宣伝・問い合わせ:スリーピン
1970年|1時間20分|日本|カラー|スタンダード|モノラル
関連ホームページ:http://www.cinematrix.jp/
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