1992年の自主製作映画『エル・マリアッチ』と、それをハリウッドで拡大リメイクしたような1995年の『デスペラード』に続くシリーズ第3作。監督のロバート・ロドリゲス、主演のアントニオ・バンデラス、ヒロインのサルマ・ハエックなどは、前作『デスペラード』と同じメンバー。しかし前作から8年もたって、もはや僕は前作の内容を覚えてないぞ。この映画のために、わざわざビデオやDVDで復習しておくほど大層な映画でもあるまいに……。というわけでいきなり映画館に飛び込んだのだが、話がチンプンカンプンで参った。これは前作の復習をしていなかったからではなく、単に脚本が悪いのだと思う。
今回の映画では、前作『デスペラード』のやはり7,8年後が舞台になっているようだ。愛するカロリーナと家庭を持ち、暴力の世界から退いていたマリアッチ。だがかつてふたりに苦汁をなめさせられた相手は、その屈辱を忘れていなかった。マリアッチの愛する家族は、かつての宿敵“将軍”の手で皆殺しにさせられてしまう。失意の中で将軍への復讐を誓うマリアッチに、CIAの諜報員サンズが接近する。間もなく起きるクーデターの混乱に乗じて、将軍と麻薬王を殺せというのだ……。
マリアッチが暴力の世界に舞い戻ってくるエピソードの中に、かつてのマリアッチとカロリーナのエピソードが回想シーンとして挿入される構成。こうして物語にふたつの時間の流れが出現するのに加えて、今回の映画ではジョニー・デップ扮するサンズという男が物語全体をリードしていく。つまり主要な時間の流れが3つになり、しかもそれぞれがほとんど接点を持たないまま進行していくのだ。これが非常にわかりにくい。
不必要に豪華なキャスティングも、観客の期待をミスリードして混乱を大きくする。例えばウィレム・デフォー扮する麻薬王。その用心棒をしているミッキー・ローク。こうした顔ぶれが出てくれば、彼らが物語の中盤以降で大活躍することを観客は期待する。麻薬王が自分と背格好の似た男を捜し、自分の替え玉にするような動きを見せるのだから、さらに期待はふくらんでくる。エヴァ・メンデスが演じる男勝りの警察官も、どんな活躍をしてくれるのかと思う。ところがこうした観客の期待は、そのまま宙に浮いたまま最後まで放置されてしまうのだ。これだけ魅力的なキャラクターを揃えて、なぜそれを放り出してしまうのかさっぱりわからない。
物語が右往左往しまうため、主人公マリアッチの活躍がまったく映えない。むしろ面白いのはジョニー・デップ扮するサンズだろうか。このシリーズにさらなる続編を作るとすれば、おそらくこのサンズが座頭市ばりの怪人となって大活躍するはず。でも今回の映画の調子だと、次の映画を作ってもやはりキャラクターの魅力を発揮させられないまま終わってしまうかもしれないけれど……。
(原題:Once Upon a Time in Mexico)
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