コールド マウンテン

2004/03/17 イマジカ第2試写室
戦場を抜け出した若い南軍兵士が恋人の待つ故郷を目指す。
血なまぐさい戦闘シーンに鳥肌が立つ。by K. Hattori

 チャールズ・フレイジャーの同名ベストセラー小説を、『イングリッシュ・ペイシェント』のアンソニー・ミンゲラが監督した文芸大作。激戦に次ぐ激戦で南北両軍とも多大な死傷者を出しながら、戦線が膠着状態になっている南北戦争末期が舞台だ。血みどろの戦闘で多くの仲間を失い、自身も瀕死の重傷を負ったW・P・インマンは、収容先の病院を抜け出して一路故郷へと歩き始める。この脱走が見つかれば、その場で銃殺されるか最前線へ送り返されるかだ。大きな危険を冒しても、インマンには生きて会わねばならない人がいた。それは故郷コールドマウンテンで、たったひとり彼の帰りを待つ恋人エイダだった。出征直前の3年前、たった1度だけ口づけを交わしたエイダに再会するため、インマンは脱走兵狩りの合間を縫って長い長い道のりを歩き続ける……。

 映画導入部の戦闘シーンが壮絶。南軍陣地の下に仕掛けられた大量の爆弾で、大量の土砂もろとも人間が吹っ飛んだのを皮切りに、押し寄せてくる北軍兵士たち。ところがこれが爆破でできた穴に落ち込んで、生き残った南軍兵士たちから狙い撃ちにされる地獄絵図が展開する。身動きも取れないほどに人間たちがひしめき合う中に、鉄砲が大砲が次々に撃ち込まれて人間が真っ赤な血煙を上げ、上から投げ込まれた銃剣で串刺しにされる。必死に穴を這い上がった北軍兵は、近くの南軍兵につかみかかって殴り合い。倒れた兵士は生きていようと死んでいようと、泥水の中に押し込められて上から無数の足で踏みつけられて絶命する。ばかでかいシネスコ画面を兵士たちが埋め尽くし、ただ生き延びんがために敵兵を殺すのだ。そこでは人種も立場も何も関係なくなる。個人の名前は、兵士たちの叫び声や悲鳴の中にかき消される。

 主人公は祖国を守るために戦う勇敢な兵士ではなく、戦争から身ひとつで逃げ出す脱走兵だ。だがこの映画は「戦場からの逃亡」をまったく非難しない。こうした態度と、この冒頭の戦闘シーンを観ただけで、本作が反戦映画であることは明白だと思う。この映画には、戦争映画に多かれ少なかれ必ず出てくる「人間味のある兵士」がひとりも出てこない。主人公は人間味を漂わせるが、それが可能なのは彼が自ら兵士であることを放棄した脱走兵だからだろう。この映画の中では、「兵士であること」と「人間らしくあること」が両立しないのだ。戦争の地獄絵図の合間に挿入される回想シーンで、開戦の報に興奮して我先に戦場に出て行く若者たちの姿を対比する導入部の構成が、戦争の悲惨さをより強調する。

 ラブストーリーとしては弱い部分もある。ニコール・キッドマンも、このヒロインを演じるにはいささか老けすぎだろう。ヒロインが強く成長していく後半はともかく、映画序盤の彼女は場違いだ。だがそれでも、実際に戦争をしている最中にこうした映画を作り、出演しようとする人たちには敬意を表すしかない。

(原題:Cold Mountain)

4月24日公開予定 日劇3他・全国東宝洋画系
配給:東宝東和 宣伝・問い合わせ:リベロ
2003年|2時間35分|イギリス、イタリア、ルーマニア|カラー|スコープサイズ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.coldmountain.jp/
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