大脱走

2004/03/12 東劇
ドイツ軍の捕虜収容所から脱出した男たちの実話を映画化。
脱走後のドラマにこの映画の上手さが光る。by K. Hattori

 『荒野の七人』のジョン・スタージェス監督の手によって、1963年に製作された脱走映画の決定版。映画の冒頭に「これは実話である」というタイトルが出る。キャラクターなどはオリジナルだが、脱走計画の手口などは実話そのままなのだそうだ。3時間近い長尺映画だが、途中でだれるところは少しもない。登場人物は多いがどれも人物像は明快で、映画を観ているうちにどのキャラクターも大好きになってしまうのだ。脱走が成功して万々歳というハッピーエンドではないのもいい。脱走は一応成功する。だが逃げ出した捕虜はほとんどが再び捕らえられ、大半が銃殺されてしまうのだ。この結末の苦さが、結果としてはこの映画を名作にしているのだと思う。

 のどかな田園地帯を、隊列を組んで走っていくドイツ軍のトラック部隊。運ばれているのは連合軍の捕虜たちだ。彼らは各地の捕虜収容所で、これまでに何度も脱走を繰り返してきた札付きばかり。ドイツ側は彼らに手を焼き、「腐ったタマゴは一箇所に集めろ」という方針でこの収容所に集めたのだ。警備は今まで以上に厳重きわまりない。だが捕虜たちは入所早々、建物やフェンスを調べて脱走の準備を始めるのだった……。

 出演者の序列ではスティーブ・マックイーンがトップになっているが、映画の中では彼が少し脇になっているのがミソ。捕虜のほとんどはイギリス空軍兵なのだが、マックイーンだけはアメリカ兵という設定なのだ。彼はいつでも単独で収容所を脱走しようとする一匹狼。それに対してリチャード・アッテンボロー率いるイギリス人捕虜たちは、収容棟の地下からトンネルを掘って、一度に大量の脱走を企てる。脱走しては捕まり独房にたたき込まれる一匹狼のマックイーンが、なぜイギリス兵たちと合流するかというのが映画の見どころのひとつ。

 映画『クライム&ダイヤモンド』の中で、ティム・アレン扮する映画好きの殺し屋は「昔の映画には第三幕がある」と言って『大脱走』を引き合いに出す。この映画の第三幕は、収容所を逃げ出した捕虜たちが、どうやって捕まるかという部分だ。ここは脚本がうまいし演出も巧妙。登場人物が多いとはいえ、脱走までは登場人物が全員同じ収容所にいるのだから、カットの切れ目でそのまま別のエピソードにつないでもまったくおかしくない。ところが脱走してからは全員がバラバラに逃げている。場所も違う。状況も違う。それを少しずつ少しずつ追いつめていく脚本の冴え。またそれを、的確に映像化した演出の巧みさ。最後にほとんどが捕まってしまうと知っていても、途中までは「このまま逃げられるかもしれない」と思わせるのが映画の上手さなのだ。

 出演俳優の主だったところはほとんど亡くなっている。こうなると、かえって40年前の映画というのは新鮮に見えるから不思議。アッテンボローなんて、『ジュラシック・パーク』とは別人だもんなぁ。

(原題:The Great Escape)

3月6日公開予定 東劇
配給:シネカノン
1963年|2時間48分|アメリカ|カラー|シネスコ|モノラル
関連ホームページ:http://www.cqn.co.jp/escape/
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