ONE TAKE ONLY

ワン・テイク・オンリー

2004/03/03 シネカノン試写室
『レイン』『the EYE【アイ】』のオキサイド・パン監督作。
若い娼婦とドラッグ・ディーラーの恋物語。by K. Hattori

 タイのバンコクで、若い男女が出会う。女の名はソム。学校に通いながら、実家に仕送りするため売春婦のアルバイトをしている。男の名はバン。趣味と実益をかねてドラッグ・ディーラーで小銭を稼いでいる。同じ公営アパートに暮らしていたふたりは偶然出会い、いつの間にか付き合うようになる。バンは付き合いのあるディーラーから、少しまとまった量の取引を持ちかけられる。おっかなびっくり引き受けた仕事は思いがけない高収入を生み出し、バンはソムと一緒に大散財。だがその金が底をつき始めた頃、バンはソムの“アルバイト”の内容を知ってしまう。「そんな仕事はよせよ。金なら俺が稼ぐ」とソムに宣言したバンは、より大口のドラッグ売買に乗り出そうとするのだが……。

 監督は『レイン』や『the EYE【アイ】』を弟のダニーと共同監督しているオキサイド・パン。彼は単独監督作として『タイムリセット/運命からの逃走』という映画も作っているが、今回の映画は単独監督作としては2本目。この後も何本か単独監督作があるそうだ。パン兄弟の作品には『タイムリセット』や『the EYE【アイ】』、プロデュース作『オーメン』のようなスーパーナチュラル路線が多いようにも思うが、『ONE TAKE ONLY』は『レイン』と同じような非スーパーナチュラル路線。「輪廻転生が!」「仏様の慈悲が」などと言われない分、日本の観客にも親しみやすい内容かもしれない。

 物語自体は結構ありきたりだし、タイのお国柄から考えても、売春婦とドラッグ・ディーラーのロマンスがハッピーエンドになるはずがない。主人公バンの脳裏に浮かぶ白日夢のような暴力衝動が、やがて現実のものになるというアイデアもありがちなのだが、これは映画冒頭にあるコンビニでの釣り銭トラブルのシーンが面白いくらいで、あとはあまり成功していないように思う。両親の離婚についての話はあまりにも説明的。こういうわかりやすさは、映画に不要なんじゃないだろうか。

 白日夢のシーンは画面の色や画質を変えたり、主人公の生い立ちが不幸であったことを説明するのは、観客にとってわかりやすい映画を作ろうとするサービスかもしれない。でもソムの生い立ちや境遇については、もっとさりげない説明で用が足りているのだから、バンについても同じように映画的な説明ができるはずなのだ。フィルター処理などで画面をトリッキーに演出していく手法は、回想シーンや幻想シーンなどで使わず、もっと別の場面で使ってもよかったと思う。

 主演は『レイン』で聾唖の殺し屋を演じたパワリット・モングコンビシット。ソムを演じたワナチャダ・シワポーンチャイは、この映画の後で結婚・出産して仕事は休業してしまったそうだ。タイでは内容がリアルすぎるとの理由で公開が2年も延期され、しかも公開直前さらに数カ所をカットしたという。

(原題:ONE TAKE ONLY)

3月27日公開予定 新宿武蔵野館
配給:バイオタイド
2001年|1時間30分|タイ|カラー|ビスタサイズ|ステレオ
関連ホームページ:http://www.fullmedia.co.jp/oto/
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