思い出の夏

2004/02/26 映画美学校第2試写室
小さな村に映画の撮影隊がやってきた。出演する子役は誰だ?
こんな映画にも現代中国の都市問題が反映している。by K. Hattori

 中国内陸の小さな村に住むオウ・ショーシェンは、テレビでチョウ・ユンファのアクション映画を観るのが大好きな小学4年生。学校の成績が悪くて1年落第している彼は先生から「このままじゃまた落第だぞ」とハッパを掛けられるが、まったく勉強には身が入らない。そんな夏のある日、村に小さな映画撮影隊がやってくる。村でロケ撮影をして、ついでにヒロインの弟役の少年を村の小学生の中からオーディションしたいと言う。映画に出たくて仕方がないショーシェンだが、落第生が映画に出演することを先生は決して認めない。監督や助監督はショーシェンを大いに気に入ったものの、結局出演するのは級長のリーウェイに決まってしまう。

 映画やCMの世界ではどんな名優やスター俳優も、最後は「子供と動物には勝てない」とよく言われる。この映画はそんな子供が出てくる映画で、しかも映画ファンなら誰でも点が多少甘くなる「映画を作る映画」になっている。そんなわけで、この映画を嫌いになる人はあまりいないだろう。物語は主人公ショーシェンと撮影隊の助監督リウの交流を物語の縦軸に置き、そこに近所に住む親友リウツなどをからめていく。

 物語の導入部で、村に2年ぶりにやってきた巡回映画を観に行きたくて仕方がないショーシェンに、両親が「勉強が終わるまで映画を観ちゃだめだ」というシーンから、僕はもう物語にたっぷり感情移入してしまった。似たような経験を持たずに大人になった人は、たぶんいないと思う。「今回は我慢してまた今度」なんてことは大人の理屈。子供には今その時しかないのだ。今映画が観たい。我慢できない。「勉強しろ」なんて言われても、そもそもこんな気持ちじゃ勉強なんてできっこない。いや、勉強なんて絶対にしたくなくなるに決まってる。母親は「私たちも映画に行かないんだから」とショーシェンをなだめるのだが、そんな約束はどこ吹く風で、父親は母を連れてさっさと映画に行ってしまう。これがまた悔しい。でも親の言うことは絶対なのだ。もう泣くしかない。

 この映画は「映画好きの少年」の物語だが、じつはここで「映画」は「外の世界」の象徴なのだ。映画は小さな村にはない外の世界の空気を運んできてくれる。映画は小さな村の現実を、一時でも忘れさせてくれる。これを単なる「映画好きの少年」の物語だと思ってしまうと、映画後半の「村を出て都会に行った人間は戻ってくるか?」という問いかけの意味がわからなくなる。ただしこれ、わかりずらいよなぁ……。

 じつは中国では地方から都市への人口流入が大きな社会問題になっていて、中国政府は不法に都市に流入してきた人たちを地方に送り返そうと必死になっている。そんな中国の情勢が、映画の中で少年に「町より田舎がいい」と言うことを強いようとしている。この映画は都市への人口流入問題を、地方の側から描いているのだ。

(原題:王首先的夏天 High Sky Summer)

4月26日〜6月13日「中国映画の全貌2004」 三百人劇場
初夏公開予定 新宿K'sシネマ
配給:ワコー 問い合わせ:グアパ・グアポ
2001年|1時間27分|中国|カラー|ヴィスタビジョン
関連ホームページ:http://www.bekkoame.ne.jp/‾darts/pagejb.html
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