クイール

2004/02/13 松竹試写室
実話ベストセラー「盲導犬クイールの一生」を崔洋一が映画化。
もっとたっぷり泣ける映画にしてほしかった。by K. Hattori


 NHKでドラマ化もされた盲導犬の実話「盲導犬クイールの一生」を、『刑務所の中』の崔洋一監督が映画化した実録ドラマ。1頭のラブラドール・レトリバーが生まれてから死ぬまでを、周囲の人々との関わりをからめながら1時間40分にまとめている。犬の姿はチャーミングだし、あちこちに観る人の涙腺を刺激する感動的な場面もある。犬好きにはたまらない映画だろう。しかしこの映画、本当ならもっと泣けるシーンが目白押しの作品にも仕上げられる素材なのではないだろうか。脚本は崔洋一とは旧知の丸山昇一と、『刑務所の中』でコンビを組んだ中村義洋。この脚本と監督チームは観客を思いきり泣かせるのが照れくさいのか、ここぞという場面で観客の感情を高める手並みに乱れが生じている。こちらは泣こうと準備しているのに、涙腺がうまく刺激されない欲求不満の残る映画だ。

 映画はクイールの飼い主となった女性たちのナレーションで語られていく。しかもそれが、何人かリレーしていくのだ。こうして物語の視点がいくつかのパートに別れることに、どんな意味があるのかよくわからない。おそらく脚本を書く側には何らかの意図があってのことだと思うが、それが映画の中でうまく機能していないらしい。もしもこの映画の中に何かひとつの視点を導入するなら、それは椎名桔平が演じる訓練士・多和田悟の視点にした方がよかったのではないだろうか。彼ならクイールの誕生から死まで、すべてを一望できる立場にいるし、クイールの成長ぶりを一番間近に目撃した人物だ。もしナレーターに女性の優しい声がほしいなら、同じ訓練所で多和田を見守る別の女性訓練士という、第三者の視点を導入してもいい。そうすればすべてを第三者の目で、淡々と物語っていくことができただろう。

 原作が「盲導犬クイールの一生」だから、映画がクイールの死までを描くことは自然に思える。しかし僕はこの映画のクライマックスを、クイールのパートナーとなった渡辺満との別れの場面に絞るべきだと思った。クイールが92年の絵本「クイールはもうどう犬になった」や翌年の「盲導犬になったクイール」で出版界に紹介されたとき、もちろんクイールはまだ生きていたのだ。クイールがパピーウォーカーのもとで天寿を全うするラストシーンは確かに感動的だが、これはエピローグとしてさらりと描けばいい。すべてを描くのがいいわけじゃない。映画『シービスケット』は物語を適当なところで切り上げているから、あの感動があるわけだし……。

 パートナーを演じた小林薫は、主役のはずなのに見せ場が少なくて残念。ここれはもっとエピソードをふくらませてほしかった。その方が別れの場面はより切なくなっただろう。子供たちのエピソードも不足している。ナレーションまでしている女の子が、まったく活躍していないのは不可解。椎名桔平の芝居は素晴らしく、まるで本職の犬の訓練士に見える。

3月13日公開予定 丸の内プラゼール他・全国松竹系
配給:松竹
2003年|1時間41分|日本|カラー
関連ホームページ:
http://www.quill.jp/

DVD:クイール
サントラCD:クイール
原作:盲導犬クイールの一生(石黒謙吾・秋元良平)
関連書籍:クイールを育てた訓練士(多和田悟・矢貫隆)
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関連DVD:盲導犬クイールの一生 / グーッド グーッド
関連DVD:盲導犬クイールの一生(NHKドラマ版)
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