アドルフの画集
2004/01/30 サンプルビデオ
画家志望だったアドルフ・ヒトラーと若いユダヤ人画商の交流を描くドラマ。
着想はユニークで役者も上手いが、話の構成は疑問。by K. Hattori
1918年11月のミュンヘン。長い戦争からようやく開放された町を、オーストリア出身の陸軍伍長アドルフ・ヒトラーは、画家になる夢を抱いて歩いていた。偶然出会ったのは戦争で右腕を失った若い画商マックス・ロスマン。主として現代美術を扱うロスマンはヒトラーのスケッチを見て、このうらぶれた小男が人並み以上の画才を持っていることを見抜く。だがその才能は、いまだ開花するに至っていない。ヒトラーの芸術の才能を信じるロスマンだったが、ヒトラーはプロの扇動家として政治集会に引きずり出されるようになる。ロスマンはヒトラーに芸術に専念するよう、たびたび説得するのだが……。
ナチス・ドイツを率いて第二次世界大戦を引き起こし、ホロコーストという徹底した反ユダヤ政策をとった独裁者ヒトラーが、若い頃に画家を目指していたことはよく知られている。この映画は画家志望の青年ヒトラーと、彼を芸術家として大成させようと手を差し伸べたユダヤ人画商の交流を描く歴史ドラマだ。物語は1918年の晩秋から冬が舞台だが、時代背景としては翌年のベルサイユ条約調印などをドラマに盛り込んでいる。
この映画に登場するヒトラーは、たったひとりで敗戦後のドイツをさまよい、自分の生きる道を模索している孤独な若者だ。酒もタバコも飲まず、女遊びもしない真面目人間。自分自身の中に眠る大衆扇動家としての才能にも、身体にこびりついて離れない反ユダヤ主義にもまったく気が付いていない。度重なる挫折ですべてを失い、自分には他人に負けない才能があるはずだというプライドだけが彼を支えている。望みは画家として成功することだけ。そのためユダヤ人画商ロスマンのもとに足繁く通い、彼の助言や励ましの言葉に一喜一憂する。決してチャーミングな男ではないが、売れない芸術家(画家・役者・作家)などはみんな似たようなものだろう。
ヒトラーを主人公のひとりにした上、残虐非道な悪人ではなく「平凡な男」として描くことには製作者たちも抵抗があったようだが、これはなかなかユニークな着眼点だと思う。青年ヒトラーに、後年の熱狂につながる芽が少しずつ見え隠れするのも面白い。ただ映画としては構成に奇妙なところがあり、それがクライマックスの盛り上がり不足につながっているように思う。
ヒトラーはリリー・ソビエスキーが演じるロスマンの愛人に導かれて物語に登場するのだから、この愛人の存在は本来もっと大きなものにならないと変だ。おそらく初期の構想では、この役がもっと大きかったのだろうと思う。またヒトラーとロスマンがまったく違う境遇にありながら心情的に共感しあっていることを強調しておかないと、ヒトラーの反ユダヤ演説とシナゴーグで祈るロスマンたちをカットバックするクライマックスが生きてこない。僕はこのクライマックスで何が起きているのか、最初はまったく理解ができなかった。
(原題:Max)
2月7日公開予定 テアトルタイムズスクエア
配給:東芝エンタテインメント
2002年|1時間48分|ハンガリー、カナダ、イギリス|カラー|ヴィスタ|SRD
関連ホームページ:http://adolf.jp/