盲獣VS一寸法師

2004/01/29 映画美学校第2試写室
江戸川乱歩の「盲獣」と「一寸法師」を石井輝男が1本の映画に合成。
チープでキッチュな石井輝男ワールドにめまいがする。by K. Hattori


 タランティーノやジョン・ウーも敬愛する石井輝男監督が、1969年のカルト映画『江戸川乱歩全集・恐怖奇形人間』以来30数年ぶりに撮った乱歩原作のミステリー・スリラー。原作の「盲獣」と「一寸法師」はそれぞれ過去に映画化された実績があるが、身体障害者が登場するこれらの原作が今この時に映画化されるとは驚きだ。

 石井監督は93年の『ゲンセンカン主人』以来、比較的コンスタントに新作映画を撮っているのだが、浅野忠信を主演に招いた『ねじ式』の後、和歌山砒素カレー事件やオウム事件を劇中で再現した『地獄』で制作スタッフの大半が逃げ出し、完成した映画もなかなか劇場で上映できないという事態に直面した。しかし捨てる神あれば拾う神あり。監督の物怖じしない態度に傾倒して、新しいスタッフや出演者たちがあっという間に集まってしまうのも石井輝男という人物の魅力なのだろう。

 それにしても『地獄』の次が『盲獣VS一寸法師』とは驚かされる。『地獄』で劇場ブッキングに苦労したら、次はもう少し劇場確保が簡単そうな作品を作りそうなものだが、石井監督はそんなことまったくお構いなしに自分の作りたい映画を作ってしまう。今回はデジカム撮影で画面はスタンダードサイズ。セットや美術にほとんど予算がかかっていないショボショボの画面は、学生の自主制作映画のように薄っぺらだ。しかしこの安い絵も、この規模の映画でこれだけの絵作りだと割り切っているのはさすがと言うべきか。

 この映画には「予算がなかったのでこのぐらいで我慢してね」「お金があれば僕たちもっと色々できるんだけど」という、言い訳めいたところが一切ない。絵作りについてはできる範囲のことで収め、それ以外のところで石井ワールドが炸裂している。塚本晋也が演じる明智小五郎とリリー・フランキー扮する小林のコンビは『恐怖奇形人間』の大木実と吉田輝雄に通じると思うし、原色ギトギトの中で半裸の女性が血しぶきを上げながらのたうつ場面など、これはもう石井輝男以外に誰も表現できない世界だろう。

 ミステリー映画としては「盲獣」と「一寸法師」の間に何のつながりもないのだが、それを強引に主人公のモノローグでまとめてしまうあたりは、『明治大正昭和・猟奇女犯罪史』のエンディングを彷彿とさせる。最後にワンシーンだけ丹波哲郎が出るのもお約束。ちゃんとアスベスト館のダンサーたちも出てきます。

 残念だったのは脇の俳優層に厚みがないこと。サーカスの芸人や屋敷の使用人、銭湯の客といった顔ぶれに、もう少し年齢的な幅があった方が世界観は豊かになっただろう。これは石井シンパの学生などがエキストラ出演しているのだと思うが、乱歩の世界はもう少し「大人びた世界」であってほしいと、小学生の頃に乱歩を読んでドキドキした僕などは思ってしまうのだ。果実が熟して腐りかけた時に放つニオイとでも言いましょうか……。

3月中旬公開予定 渋谷シネ・ラ・セット
配給:石井プロダクション、スローラーナー 宣伝:スローラーナー
2004年|1時間35分|日本|カラー|DV|スタンダード
関連ホームページ:
http://www.fjmovie.com/ishii/mojuvs/

DVD:盲獣VS一寸法師
原作:盲獣(江戸川乱歩)
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